例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

忍者ブログ

頁を戻る頁を捲る

捨てる神あれば拾う神あり


 キャンディー入れにでもするような佰圓均一店の入れ物を幾つか購入し、米を保存するのに使っていた。今日最後のひとつが、空になってしまった。
 米は今まであちこちから戴き、滅多なことで購入したことがなかった。
 空になった入れ物に、亡くなった伯父を思い出す。不作なら他所まで回せないし、高額になるなら全て売りたくなるだろう。けれど、こんなときも、と想う状況のときも変わらず接してくれた伯父に、母ばかりかあたしも救われていた。
 母に、他人を当てにしないの、と幾度かたしなめているが、米がひと粒も無くなったなどとまさか想ってないだろう。

 夜になり配送会社からメールが届いた。荷物(米)の届けがあると云う。口をついたのは、捨てる神あれば拾う神あり、だった。想わぬ人の想わぬ親切が嬉しかった。
 住所が変わったことを知らせてなく、慌てて配送会社の方に日にちの変更と一緒に住所変更を届けたが、無事届くか、其れが心配。

拍手

      郵便箱

頁を戻る頁を捲る

長閑


 土手を歩くのは拾日振りだった。
 マメ科の植物だろうか。何拾メートルにも渡り道を蔽うように紫の花が咲き乱れていた。
 確か壱度近くの畑の隅に咲いていたのを見たことがあるが、毒の有無はわからない。手の甲を当てても発疹はできず、摘んで持ち帰ることにした。

 途中聞こえてきたのは鶯の声だった。足を止め耳を傾けていると、足元をカナヘビが走り抜けていく。壱匹だけだと想っていると、わらわらと現れては草の中へ吸い込まれていく。
 「うわぁ。」と小さな声を出すと、すぐに「素敵。」と彼の声。
 他に歩いている者も自転車で通り過ぎていく者もなく、ひたすら長閑。
 割烹着姿も、自分でこしらえたハリネズミの柄の不恰好な黒い手提げも、草花を握った手も、お気に入りになって、彼にカメラを向ける。

拍手

      郵便箱

頁を戻る頁を捲る

覚え書き


 今朝は町で壱斉に行われたごみ拾いに参加した。
 初めてのことは余程嫌なことでもない限り其れを躯は全身で感じようとする。緊張と新鮮さが入り混じり、心の処理が追い付かず疲労する。

 昼食はホットケーキにしてみた。オレンヂを乗せて焼くと酸味で甘味が薄れ、好みの味になった。
 今までバターで炒めた林檎を乗せて焼いていたけれど、色々試してみようか。

 和室にイグサのカーペットを敷き、ついでにと仏壇を掃除する。
 近所で戴いた橙の実はいつ下げたらいいのだろう、とふれてみたら軽い。外側は傷みもなく艶もあるのに、中身が抜けてしまっているのに驚く。

 来月まで食材は家にあるもので済ませる必要もあり、夕食はバターチキンカレーに。こしらえるのは初めてで適当なものになった。明日も食べられるようにと玉葱だけでなく人参とじゃがいもも入れた。
 小皿にふたつ用意しようとし、父はカレーライスは食べなかったことを思い出す。

 梅雨入りを想う時期。躯に痒みを覚えるようになり落ち着かない。

拍手

      郵便箱

頁を戻る頁を捲る

現在進行形


 亀たちは眠りに入り、今日最後のお茶を飲む時間。ぽつぽつと聞こえる雨の音が心地いい。誰がこしらえたのか、明らかに手仕事だと判る縫い目のはんてんは丈が長く、肌寒くなった夜に似合い過ぎている。
 おばあちゃんにはんてんのこしらえ方を教わっておけばよかったとか、誰々に何を・・・、とたまに想っては、古くなりぼろぼろになったものを適当に直している。
 此のはんてんも直したら、棄てられなかった彼のはんてんも直して、並べて衣文掛けに・・・、と想う。

 今月は全て支払いを済ませたからときゃべつに新物のしらすに、オレンヂを買ってきた。帰宅すると町内会費をお願いする回覧板が届いていて、明日から壱日弐佰圓で暮らすことになってしまったことに笑う。
 ちらっと彼を見る。ん?下ろしに行く?、って言うので首を振る。
 あたしたちの暮らしに、これからも幾つか揃えたいものがある。あたしの時間は止まっていないし、あたしたちの時間も動いている。

拍手

      郵便箱

頁を戻る頁を捲る

電話


 電話するのは苦手だった。以前は冒頭の挨拶から何から何まで壱字壱句書きとめ、其れを読んで電話していた。友人にすらそうだった。例外は彼ひとり。そんなふうだったので壱日壱度しか電話を掛けられなかった。
 母のケアマネージャーに、介護施設に、病院の面会の予約に、親類に、と壱日電話を掛け、できたと安堵したのも束の間、其れだけで疲労したのか今日も弐階の部屋でいつの間にか眠ってしまっていた。
 夕食はヨーグルトにナッツ。昼寝してもまだ眠い。何故こんなにも能力がないのだろうと落ち込みそうになる。
 眠ったら元気になるよ。そうつぶやいてカエルの人形を枕の隣に置いて、自分の手首を舐めた。けれど、猫がするように全身は無理なのでカエルの人形に躯をくっつけて眠りに入った。幾歳まで此れをしているのだろうと想いつつ。

拍手

      郵便箱