例えば秘密のノートに記すように。

       cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア


 彼の後についてレコードを見ていた。天井のすぐ下に棚があり、レコードは其処に所せましと並んでいた。随分上の方に置いてある店だなと想っていると、彼が階段を上がっていく。あたしは初めての店で勝手がわからず彼を追う。
 階段を上がると、人ひとりが入り口をやっと潜って入っていける箱のような狭い部屋が幾つもあった。其の壱室壱室にレコードが置かれている。下に客はそれなりにいたのに、上には誰もいない。新宿にあったブートレグの店に似てなくもないが、此処には入り口に扉がない。
 彼がどんどん先へ行ってしまい、見失うとあたしはべそをかいて彼を呼んだ。
 そこで目が覚めた。

 以前弐度ほど観た「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」と云う映画がぼんやりと浮かぶ。病魔に侵されたふたりが向かったのは海。途中盗んだ車がギャングのものだったりと仕様もない展開の物語だったと想うけれど、ふたりが愛おしい人物として描かれていたと記憶している。

 もしかすると、あれは天国への階段だったのだろうか。だとしたら、あたしは彼の足を引っ張ったことになる。
 ただ或のレコード店の上の部屋に扉がついていなかった。必死で扉を叩く必要もない。夢で見たことなのに安堵している自分がいた。

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メキシコ70


 洗濯した冬物を引き出しにしまう。加湿器を掃除し炬燵を片付けると、空間を増やした部屋はより空気が感じられるようになった。
 冬へ季節が移っていくときの、ひとつづつ物を増やしていく部屋に感じるぬくもり好きなら、夏へ季節が移っていくときの透明感のある部屋もいいなと想う。例えるなら、実際に音楽を耳に入れているときと音楽をふいに思い出したときの心地よさの違いだろうか。

 彼が持っていた壱枚、チェリーレッドレコードの「メキシコ70」と云うCDが気になり聴いてみた。調べてFELTのメンバーの人が出したものとわかる。FELTは引っ越し先に持って行かなくていいと想ったのに、迷うことになってしまった。
 夏を感じるような日の午后に音楽なんて聴くものでない、と苦笑いが出る。バタフィールド・ブルース・バンドは壱枚選んで持っていこうと聴き直しているが、頭を抱えてしまう。

 ライブへ出掛ける気は起こらないものの、此の頃音楽は普通に聴けるようになった。嬉しいのかなんだかよくわからない。気が付くとぼろぼろ泪が零れていた。
 チョコレイト(メキシコ70と呼ばれるものではないけれど)をひとつ口に入れ、明日は麻の服を着てみようと想った。

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少しづつ


 誕生日プレゼントです、とあちこちから届いていたポイントはそのまま殆ど消えてしまった。ポイントを貰えたと悦べば小さな倖せを得られると想うものの、ポイントを貰えようがなかろうが欲しいときに欲しいものを得るのも小さな倖せだ。
 前から欲しかったルーズリーフと、それから新たに欲しくなったハンガーを明日買いに行こうと想う。まだ使えるポイントのある店に。

 ハンガーラックを残そうと考えたら、ロッカー箪笥を残す疑問が涌いてしまい、中を空にしてみる。無くても困らないとわかり処分することを決め、中に同じく処分予定のオレンヂ色のカラーボックスを入れた。取り敢えず物置ができた。
 じっくり考えるのを好む自分。まとまった時間があるのは助かる。
 引っ越し後の部屋の図面を起こし、家具の配置を試ては、もう参度書き直している。

 それからずっとわからなかった細々した線が、何なのかわかってきた。ただずっと見ていただけだったのだけれど、今日突然其の壱本が以前使っていた小型のデジタルカメラの充電に使うものだとわかると、他のものも見当がついた。また混乱していたのかもしれない。
 夕刻母から理解に苦しむ電話を貰ったが、なかったことにする。

 数枚残した彼のシャツのうち、数枚は襟を外しスタンドカラーにすることを考える。できあがったらハンガーに掛け、麻のシャツは早速着てみようと想う。
 どんな小さなことでも胸にひとつ抱けば、間違った方へ行くことはない。
 これからも倖せになろう。彼に声を掛ける。

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 目覚めると吉報とも呼べるものがアイフォンに届いていた。其処には、彼の所有していたTAMAのギターの寫眞と、新たな所有者が添えて下すった言葉があった。上品かつ芯のある音。
 雨戸を開け彼に見せる。いい人に引き継いでいただけた、と悦ぶ彼の友人の言葉と一緒に。

 縁も人柄。悦ぶ人も、悦んでもらう人も。そして其処にある一緒に悦んでくれる人のいる倖せ。
 あたしにとり其れは彼だった。其のとき其のとき一緒に悦んでくれる人はいたけれど、ずっと一緒にいた人は彼で、もうそんな人はいなくなったのだと想っていた。
 今回彼の友人と一緒になり悦んだとき、少なくともこれから彼のことで一緒に悦ぶ人が自分にいるのだと想えた。

 あたしを倖せにしてくれた人は、これからもあたしを倖せにする気でいるのだろう。そんなふうに想えてならない。

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想い事


 スリッパを夏用に替えようと下駄箱を開けると、来客用のものしかなかった。去年履いた或の白いスリッパは傷んでしまったことを思い出す。
 冬でも裸足で過ごすことが多く毎年スリッパを新しくすることはなく、うっかりすると用意するのを忘れる。また自分で作ろうかと想い、生地がないことを思い出す。

 此のところ減らすことを毎日考えている。足すことが頭から抜けてしまっている。
 けれど、明日絶えるとわかっても、あたしは今日花や雑記帳を買い足すだろう。スリッパだのお米だののことは忘れてしまうのに。

 自分の意識化にあるものは何だろう。そしてあなたの意識下にあるのは何だろう。其れが一致するかどうかでなく、相手を微笑ましく見ていられるのがいいのだと想う。

 少しづつ開いてきた白薔薇に、例え明日自分が消えても花のひとつひとつが開くことを想っている。

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