忘れられないもの
2025, Apr 24
毎朝「おはよう」と彼に挨拶しては笑う。珈琲豆を挽いては、匂いに彼がしていたことを想い倖せな気分になる。亀たちに餌をあげ、水槽を出しては彼の声を聞く。
夜になって布団に潜り、縁を切らされた人たちの言動を思い出しては悲しくなったり腹が立ったり泣いたりする。
夜中眠れなくなっては死にたいと想ったり、目覚めが辛いと想ったり、ようやく躯を起こし顔を洗い、花瓶の水を取り替える頃になるとベットでの彼の姿を思い出しては頭や躯が軽くなり透き通っていくのを感じる。
通院していた医者からコロナだから来るなと言われ病気の発見が遅れたときも、転移がみつかったとき担当医に見落としではないと言われたときも、治らないとわかったときも、そんなことどうでもいいとでも云うようにすることをしていた彼だった。
母が入院しまたひとりで暮らすようになり参週間余り、自慢話も愚痴も聞かされずに済むようになり静けさが戻ってきた。(気付いたら過食になっていて体重が増えてしまったけれど、自己嘔吐にまでならずに済んだ。)
今日も手紙もメールも返事ができなかったなと気にしつつ、例え彼らの日々が残酷なものだったとして、美しいものを感じていますようにと想う。
忘れられないもの。其れは今も此処にあるもの。