例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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欠けていく器


 来たよ、と言う声に反応し母が笑う。丁度リハビリが終えたところだと云うので、疲れを問うと、疲れたが明日は壱日寝ているからと答えが返ってくる。
 其のあと始まった母の話は唐突に想え今回其処に認知機能の衰えを感じたが、壱週間前のことを思い出すと時系列がおかしくなっただけで、言語や認識や理解力に衰えは見られない。あたしに対し、たいへんだね、ありがとう、と労ることに変わりはなく、時間になり看護師さんがあたしを呼びに来ると悲しそうな顔をしたあとで、あと壱回は必ず来なきゃ駄目と言う。それには、壱回でなくもっと来るよね、と看護師さんと笑ってしまった。
 こちらが母の時系列の認知の衰えをわかれば会話が成り立つように、これからも明らかに認知症と判断されるまではそうしていけばいいだろうか。高齢者に対し少し首を傾げることがあると早急にボケていると判断する者もいるが、逆にそう云う人の方が理解力が足りないと想ってしまう。

 リハビリ計画の用紙を今回初めて出されたが、車椅子に乗ることが目標になっていた。
 齢をとるにつれ少しづつ何処かが弱くなっていく。怪我や病気で急に弱くなったとして、命ある限りいきなり全て無くすわけではないだろう。
 欠けていく器、零れていく中身。けれど、あたしに残る誰かの記憶は熟れた果実のように重くやわらかだ。

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