例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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だんだん


 外出時に着る服は特に要らなくなった。限られた店しかなく遊び場所もなく、必要とあらば母のものを借りることもできると想うと、此処に来てからシャツやブラウスのカフスを取り袖口にゴムを通し直して着ることが多くなった。
 不器用なこともあり壱枚直すのにも時間は掛かるが、袖口が汚れるのを気にしいちいち割烹着を羽織る面倒臭さや、Sサイズがみつからず指先まで隠れてしまう煩わしさから開放されたことは大きい。
 だんだん好きなものがわかってくる。されど年齢とともに好みも変化する。そうしてはだんだん好きなものがわかってくる繰り返し。
 変わらないものも変わるものもいとおしく、それに合わせ繕ったり直したりする自身の手をいとおしく感じたりして、今日も手直しした服を頭からかぶり彼の前に立つ。それからいつものようにお茶にした。

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生命


 花びらの色を残し乾燥花になる花、花びらの色が抜け茶に変色するが形が美しく乾燥花になる花、やはり花びらは変色するが匂いを残し乾燥花になる花、と乾燥花にしてもいろいろあるのだなと想う。
 リラは花びらの色は抜けてしまったが、樹木に繋がっていた頃を思い出したかのように匂いを取り戻していた。他の花と一緒にし小瓶に詰めればいいのだろうが、まだ長い枝についたままにしてある。

 手に負えないものは無くなっていくが、そうでないものは増えていく。
 いつか同じように自身を亡くすのかもしれない。其の直前まで彼を想っているのかもしれない。

 初めて見る茎の先に小花がまとまった紫の大きな花を試しに弐本吊るしてみたが、果たして此れは乾燥花になるだろうか。
 生物学的には生命は無いものとなってしまうのだろうが、そうは想えず花の傍で耳を清ます。わかっていることが全てではないでしょう、と相変わらずとも云えることを放っては、成熟する前に朽ちるだろう自分に笑う。

 それほど関わることなかった花のひとつにも与えてもらっているのに、あたしはこのまま誰にも何も残さずいくだろう。ならばせめてすっぱりとと願っている。

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お弁当


 要領320ミリリットルと記された保存容器を弁当箱にし、昼食を食べるようになり数箇月。ぱっと見て量や何を口にしたかがわかる。
 肆箇月は食べてない牛肉ときのこ。絶えずと言っていいほど口にしているブロッコリーとトマト。子供の頃は口にするのが嫌だったけれど、レバーだってラムだって肉は食べられるようになっているし、きのこもエノキなら頑張らなくても食べられる。避けているわけでもないのに何故か眼に入らない。
 今日は唐揚げ弁当を作りお腹いっぱいになったので、おやつも夕食も要らなくなってしまった。昼だけでもしっかり食べようと始めたことなので良しとしよう。
 ハードルは低い。そのくせ、曲げわっぱの弁当箱を買ったら素敵だろうか・・・、と弁当箱のハードルは高い。
 何処かに持っていくわけでもないのにと想うけれど、こうしていると落ち着く。口の内側を噛むこと(苛ついているときにしてしまう癖)が少し減った。

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洗濯


 洗濯機の脇に籠をふたつ用意するようになった。
 籠のひとつに黒い衣服のみ入れ、ひとつは其れ以外のものを入れる。白い衣類のみで洗濯すると、白い色が長く保てると聞いている。あたしは黒い色を保ちたかった。
 黒い衣類だけまとめて洗うと、黒い色が持つようになったと感じている。

 アパートや借家暮らしのような煩わしさもなく、ふたつの箪笥の引き出しを入れ替えただけで終わってしまう衣替え。
 何枚か残した彼の衣類は、あたしのものと混じった。丈や腰回りを詰め、お気に入りになった彼の麻のパンツ。此の黒い色はいつまで綺麗でいてくれるだろう。

 直せずにいるジャケットも、できれば草の匂いも土の匂いも朝焼けの匂いもつけたい。しまったままにせず呼吸させたい。汚しては洗いたい。
 生きていること、生きていること、・・・(苦しくて仕様がないけれど)。彼が教えてくれたこと。

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今のあたし(たち)の日々


 母のベッドを移動させ和室を母の寝室にしたは良いものの、母の寝室兼客間だった洋間は炬燵兼座卓はそのまま、奥に父の仏壇を置き家に上げるまでの客人は滅多にいないこともあり上着を掛けた木製のハンガーラックと鞄を入れた大きな籠も置いたが、それきりどうしたものか悩んでしまっていた。
 ふと想い、伯父がくれた貨車とでも云うのか、物を乗せ移動させに便利なものに座布団を乗せてみると、違和感なく置けることがわかった。そして余っていたパイプ製のハンガーラックに大判のストールを掛けると、いい目隠しになることもわかった。
 湖へも森へももう出掛けることのない連休。白いワンピースを着て花に水やりをしたり亀たちと遊んだりお寿司をこしらえてみたり・・・。ストールでなくて着物を掛けても素敵かも、と言い彼の方を向き笑うと、よかったねと言う声が聞こえた。

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