ナイフと信用
2025, Jul 10
ポリエチレンの手袋にクッキングペーパー、サランラップにアルミホイルに台所洗剤に除菌スプレーにマスク・・・。貯えが多く、食料品以外の出費が少ないことに助かっている。そのくせ無いものは無く均衡の悪さが眼につく。
母がお茶の缶など、あちこちにまとめて入れた小銭をひとつにまとめ、伍佰圓玉と佰圓玉がないことに嘆く。母が退職するときに頂戴したと云う大きなゴム通しはあたしもお気に入りだった。あれは店で買えるものでないだけに、針箱を開ける都度思い出してしまう。何せ母に譲った限定品のボールペンひとつ、あたしは憶えているのだ。
あと拾年くらいは身勝手な振舞いを時々思い出すのだろう。けれど其処に既に顔はなく、蛆のようなものが蠢いているようにしか見えない。
母が好きでよく飲んでいたサイダーの小さな缶を開ける。此れが最後のひとつ。
流石に今では玄翁を抱え眠ることはなくなったが、ナイフに鋏、包丁、鎌はすぐに手にできるよう配置している。そうして闘うことと信用の大きさを自身に刻んでいる。