愛燦燦
2025, Jul 18
あたしが来たことがわかると途端に笑顔になる。そして、突然うたってと言われ、頭が追い付かない。どうやらカラオケに行った記憶が現在流れている時間と一緒になっているらしい。
かあさんがうたってよ、と言っても首を振る。母が知っている夏の歌をと考えるが、真っ先に浮かんだのは甲斐バンドの嵐の季節だった。其の後で浮かんだのは甲斐バンドのシーズンにブルーレター、ストリート・スライダーズのエンジェル・ダスター、モッズの激しい雨が、真島昌利の夏の朝にキャッチボールを。
どうしようと想っている間に母がまた別の話をするので、相槌をうち聞く。そうして話が途切れた処で今度はあたしが町の祭りの話をすると、母が其れに応えていたが、またうたってと言う。
何の歌がいいの?と顔を覗き込むようにして訊ねると、眼がきれいだね、と言う。
あたしには、もう母が天使。
他を貶めるようなことも不平不満も愚痴も言わない。他に感謝したり他を褒めたりしているのを聞いていると、此の先認知症が進んであたしを忘れてしまっても其れが何と想える。
帰ってから、美空ひばり(小椋佳)の愛燦燦でもよかったのかな、なんて想った。