長閑
2025, May 27
土手を歩くのは拾日振りだった。
マメ科の植物だろうか。何拾メートルにも渡り道を蔽うように紫の花が咲き乱れていた。
確か壱度近くの畑の隅に咲いていたのを見たことがあるが、毒の有無はわからない。手の甲を当てても発疹はできず、摘んで持ち帰ることにした。
途中聞こえてきたのは鶯の声だった。足を止め耳を傾けていると、足元をカナヘビが走り抜けていく。壱匹だけだと想っていると、わらわらと現れては草の中へ吸い込まれていく。
「うわぁ。」と小さな声を出すと、すぐに「素敵。」と彼の声。
他に歩いている者も自転車で通り過ぎていく者もなく、ひたすら長閑。
割烹着姿も、自分でこしらえたハリネズミの柄の不恰好な黒い手提げも、草花を握った手も、お気に入りになって、彼にカメラを向ける。