例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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黒いうさぎと白いうさぎ


 気に入った雛人形は今年もみつからず、ふと想ったのが小さな椅子に乗せた小さな小さな黒いうさぎと小さな小さな白いうさぎの人形だった。これでたんぽぽがあったなら絵本の「The Rabbits’ Wedding」のうさぎたちになるのに、と想いつつ雛人形の代わりにする。
 五人囃子まで揃った立派な雛人形が家にあったことを憶えている。立派な木箱に入った其れをときどきひとりでこっそり眺めることはあっても、飾ってあった記憶がない。
 価値など子供だった自分にはわからず、好みも今とは違い、いつのまにか家から消えていた雛人形に残念なことをしたと毎年今頃になると想う。

 あれがあったなら倖せだろうが、なくても倖せで、黒いうさぎと白いうさぎを来年はもっときちんと飾ろうなどと考える。
 今あるお気に入りのものはきっと死ぬまで一緒。
 今度たんぽぽをみつけに行こうか。

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壱対の影と光


 朝出掛けて帰りは夕方。駅から遠いと聞いてはいたが、片道だけならまだしも、昼食抜き弐時間立ち通した後の徒歩はきつい。バス代を気にしながらも、パン屋に立ち寄る。
 今日中に銀行に行けなくなり全て終わりにすることはできなかったけれど、安堵の気持ちが疲れを増幅させている。

 玉葱とチーズをのせて焼いたパンと珈琲が夕食になった。
 明日食べようと想った抹茶クリイムの入ったケーキみたいなパンも結局食べてしまう。ご褒美、と自身で自身を労う。

 他人を貶めてまで利己を通す人たちを決して忘れることができなければ、あたしを倖せにしようとした人のことも決して忘れない。
 壱対の影と光。其の差は開いていくばかり。

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やっと


 必要書類を何度も確かめる。明日のことを想うと胸が逸る。
 忌まわしい記憶は残るだろうが、煩わしいことからは開放される。
 想うとおりに人生は進まないが、長い歳月を経て過去を振り返れば報われたことが自身を支えている。

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今も


 ブルージーンズを久し振りに穿いた。リーバイスでもエドウィンでも国産でもないけれど、残った壱本。
 ジェームス・ディーンにローリング・ストーンズのアルバムジャケットに・・・、と重ねられた記憶の藍色は夜明け前の空の色。村上龍や中上健次の小説にも想い浮かべた藍空。

 棄てられないものは続いているもの。これからも続いていくもの。
 彼の穿いていたジーンズを詰めた箱を開けたら、いつかの空が飛び出してきた。

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だんだん


 葉が茶色になってしまったガジュマルやブーゲンビリアが壱枚壱枚葉を落としていくので心配していたら、枝の先に新しい葉をつけていた。小さくて眼を凝らさないとそれとわからないくらいだが、小さくても緑色をしている。

 鉢植えを外に出そうと玄関を開け、縁側に廻ったところで物音が耳に響いた。眼をかすめていく塊を追うと、茶トラの猫だった。途中で立ち止まったので声を掛けると振り向いてくれたが、その先どうしていいかわからない。
 大きな種類の猫でもなさそうなのに山猫かと想うくらい大きくまるまるとした猫に、猫で合ってるよね?間違いないよね?と掛ける言葉が声にならない。猫の方もどうしていいかわからないと云うようにじっとしている。
 暫くみつめあった後、手を振って別れた。

 季節が進んだり戻ったりしつつもだんだんと暖かくなっている。雪解けなどない代わりに、うちは猫の心配があるのだったと思い出す。
 鉢植えの植物にまでわさっと絡んだ、猫の毛を、集めたりしや、春の庭、・・・・・。

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