例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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境界



 母の冬物をしまい、春夏の衣類をハンガーラックふたつに掛けても収まり切れず、大きな籠もふたつ使った。自分の伍、陸倍あろう衣類。そして衣装ケースに入った下着は廿倍はあろうに、手前の肆、伍枚しか着ない様子。あたしは母のすることがわからない。
 壱日掛かってしまい、外へ出した亀たちを戻したのは拾捌時近くになった。キャベツの外側の真っ青なをざく切りにしオリーブ油を使いフライパンで蒸し焼きにする間、青い麦の穂を束ね窓辺に吊るした。おそらく母はあたしのすることがわからない。

 そこまできついことを言うか、と云うくらいのことを何度か言ったら難癖をつけるのをやめてくれた母。
 境界がしっかり存在する関係があたしは好きだ。わからないことはわからないままでいい。

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亀と彼と


 注文した亀の餌が届き安堵する。
 小さな方の亀用の餌は近所の店でみつかったけれど、大きな方の亀用の餌は此の町で見ない。引っ越し前によく利用していた店に注文したところ、季節が終わってしまったからなのかなかなか入荷せず、キャンセルするしかなかった。
 今回インターネットを利用したが参袋買うと値引きされるので陸袋注文し、彼に手に入れられたことを報告すると、数に驚いたあとで素敵だねと幸せだねと繰り返し言葉を放っていた。

 支払いは、いつのまにかアイフォンに入っていたauペイとポイントを使った。auペイでキャッシュバック云々と言われたのは去年のこと。カードを持っているものの使えるようにしていない。通知が来たら直接店に行き教えて貰えばいいと放っておいた。
 よくわからないけれど自分にも支払いができたことを彼に伝えると、よかったねと返ってきた。

 彼とは喧嘩も沢山したと想っていた。それなのに考えてみれば何気なく過ごしていた時間の方が圧倒的に多く、喧嘩したのは其の何佰分の壱とかそんなもので、今となっては中身を細かに憶えていない。
 大きな方の亀はあなたが勝手に買ってきちゃった亀さんだからこれからもよろしくね、最後まで見守ってね、と言うと曖昧な返事しかない。見ると彼はほろ酔い加減でにこにこしている。仕様がないなと言いながら、横であたしも珈琲を飲んだ。

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デニムの作業着


 春になり家の中で羽織るものがみつからず、冬の上着が脱げなかった。
 引き出しを開けみつけたのはジーンジャケット。だんだんと着ることが少なくなっていたけれど、アパートや借家に住んでいたのと違い、シャッターがついていたり猫の額ほどとは言え庭があったりと家の中だけでは済まない暮らしに厚手のデニムは似合いそうだ。
 昔、彼から貰ったデニムのシャツも、彼のリーバイスのジーンジャケットも此処へ持ってきた。胸が少し弾んでいる。最後になったオレンヂを食べて頬に手を当てる。バッグにしようと想って残したオーバーオールもまだ着ることにしよう。
 割烹着もいいけれど、デニムの作業着もなかなかだと想う。袖を折れば洗い物も問題なさそう。
 硝子ポットの中には、黒すぐりとブルーベリィの実の入ったあまい味のする紅茶が。草むしりを終えたあとのお茶の時間。

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アマリリス


 アマリリスが開花した朝、いとこから電話をもらう。
 母の面会に行くと、帰り際やっと目覚めた母があたしを見て嬉しそうに笑った。××ちゃんから心配する電話があったと伝えるとやはり嬉しそうに笑ったあとで、××は、とはっきりした声で名を口にした。其のあとは何を言っているか聞き取れなかったけれど、彼のやさしさを口にしたのだろう。

 昨夜も録り溜めしてあったビデオからひとつ観た。
 家族、と云う言葉を口にしていた主人公。言葉と行動が合わさっていた彼女。

 電話壱本あるのとないのでは雲泥の差。
 紙一重と言うが、紙一重も余りにも大きいと感じる。

 まだちいさな莟のひとつもきれいに咲いてくれるよう。今朝も水遣りが欠かせない。

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優先順位


 白い水仙、海棠、うさぎの尾、麦にクリスマスローズ。そして朱く細い筒状の花はエリカ。
 クリスマスローズは冬に咲くものだとばかり想っていたし、エリカは薄紅色の花の形が異なる種類ひとつしか知らなかった。地元の野菜を売る店の壱角にある花のコーナーを覘く都度驚かされる。

 今月は母の入院代、入院保証金(後で返金されるが)、交換用の浄水カートリッジ代、固定資産税(今年度の大半を売買相手から頂戴してはいるが)、・・・と支払いが続く。
 なのに今日も苺とひと束にしておく筈だった花を参束買ってしまった。

 ご飯を我慢してチケット代に当ててしまっていた頃愉しかったように、残り少なくなった米を心配しながら乾燥花にしてもいいので麦がもっと欲しいなと想っている。
 花瓶に活けた麦は青々として心をとらえて離さない。眼の前に、坂道を下る弐台の自転車が。

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