例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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ささやかな


 錆付いた鋏を砥石で磨き、襟ぐりが合わないTシャツを直す。
 日々のそう云ったことが、生きていたくない気持ちから掬いあげてくれる。

 届いたCDは、ジャケット寫眞からして映画の壱場面のようで引き込まれた。
 拾代廿代の頃夢中で聴いていたバンドも、途中から全く聴かなくなってしまったと云うことは珍しくない。若い頃は感覚のみで聴いていた。バンドが時を重ね身につけていったものがあるように、齢を重ね身につけていったものが少しは自分にもある。今も変わらず聴き続けているバンドの歌は、自分が何を削ぎ何を拾い上げどんな大人になってきたか教えてくれるように想う。

 塩バターラーメン。台所に立ったとき或のとき彼が頼んだものが蘇り、そんなものまで憶えている自分に笑う。
 幾つものささやかなことが集まりできた細い絲があたしのこれまでの日々。切れそうでいて切れない、長い物語。

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家具の配置替え


 東と西に隣接した建物があることもあり、雨天の日はどうしても家の中が暗くなる。南側は隣の部屋になっていて、晴天の日でも北側が壱番明るい。
 北側は天井から床、左右もいっぱいに窓がある。茶色のレエスのカーテンを下げた御蔭で、外から家の中は殆ど見えない。窓際に机と高さのない整理箪笥を置き、整理箪笥の上には乾燥花だの西洋人形だのを飾っていたが、机だけ残し窓際を開けることにした。
 他の家具の配置も替えることになり、半日時間を使ってしまっただけ以前より明るく使い勝手もいい部屋になった。
 家は住んでみないと本当にわからない。これで少しは落ち着くのだろうか。

 読みかけになったきりの書物、書架に立て掛けたままの葉書き、引き出しにいれたままの10Bの鉛筆や裁縫箱、・・・。
 元気ですともご無沙汰していますとも記せず、切手を眺めることも今ではしなくなってしまった。

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週ごとの花束


 今週の花も紫陽花。白い花とうす紫からうす紅色の花の弐種。うす紫の方はガクアジサイだろうか。余り見ない種類だ。家の花瓶に合いそうだと想ったら、特に父の傍に置いた紺の花瓶に活けるとため息が出るほど素敵なことになった。
 それとダリア。ダリアは深紅に薄紅に・・・、肆色の花が束になっていた。
 週ごとの贅沢。と言っても食料量販店に置いてある花束の半値以下だけれど。

 家の庭には、新たに開いた花がある。
 道路際に置いた鉢植えの植物が、うす紫色の花をつけた。が、こんな花、家で見たことあっただろうか。此の家にもかあさんにも驚かされてばかり。ハイビスカスが咲いていたこともある。
 買ったのか戴いたのか、はたまた種が飛んできたのか、咲いては消え、また新たな花が表れては消えてを繰り返している。

 もうひとつ花瓶を置き、ゼラニュームをまた活けようか、それとも鉢植えに咲いた花にしようか柘榴の枝を手折るのもいいだろうか。
 生きていたくないと泣いては小さな夢を見ての繰り返し。

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風をあつめて


 入り口から上がり框までビニイルシートを片側だけ敷いた玄関。もう片側はコンクリートのまま。其れに対しては不満はないけれど、コンクリートに付いた大きな染みが気になっていた。
 何か零したのだろうか。中性の住宅用洗剤を吹き掛け如雨露の水で拡げデッキブラシで擦ると消えた。どうせならと、ビニイルシートを外に出し、隅から隅までデッキブラシで擦る。ビニイルシートもデッキブラシを掛けた。

 玄関を網戸にし部屋でくつろいでいると、母の携帯電話が鳴った。
 いとこは変わらず母の携帯電話に連絡してくる。これまでと同じでいいかと訊いてきたことで、彼の落ち着かない気持ちを知ることになった。
 今度も面会予約は日曜日でなかったことを伝えると、午后なら休めるから自分も行くよ、迎えに行く、と返ってきた。

 玄関から鮮度の高い空気が家に入ってくる。
 窓と云う窓を開け放ち、はっぴいえんどの歌を口遊みさくらんぼをつまみ喰いした。

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アメリカンチェリーの季節


 ところどころ破れのある障子を、貼りかえずに黄ばみをとり綺麗にしようと考えた。
 漂白剤を薄めた水を霧吹きし、暫し見に行くと障子紙は随分白くなっていた。掃き出し窓側の壱枚は霧吹きがうまくできなかったらしく、上の方に黄ばみが残ってしまった。新しい障子紙のようにはいかない。けれど、こざっぱりし気持ちがいい。あちこち直し甲斐のある家で、と笑う。

 褒美と云うわけでもないが、アメリカンチェリーを買い、彼と分けて食べる。ひとり分に丁度いい、本当に小さなカップに入ったアメリカンチェリーは可愛らしく、久々に棚の奥から内側にもすみれの描かれた小皿を出し盛り付ける。
 そろそろ麦わら帽子をかぶってもいい季節だろうか、などと想っては、そう言えば・・・、と口にすると、ああ、と応える彼の目が泳ぐ。
 飾りはスナフキンみたいなの、と言う彼のリクエストに応じ編んだ帽子を、初めてかぶった其の日に失くしてくるような人だった。

 扇風機の風はまだ冷たく鳥肌をたてた腕。
 とうに愉しみな予定など持たなくなったのに、今年も色鮮やかな夏を想い描いている。

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