例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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予定は未定


 予定ではゆったりしてふわっとしたカーディガンを完成させる筈が、またもや躯にぴったりしたものになってしまった。
 珈琲ポットは珈琲ポットで注文する予定が、近所の店で日本製の手頃なものみつけ即決してしまった。

 カーディガンはともかく、珈琲ポットは口が廣く使いやすい。
 以前のものより小振りですぐ冷めるので、そのまま冷蔵庫に入れてアイス珈琲を愉しめるのもいい。水出し用のアイス珈琲ポットはまだ戸棚にしまわれることになったが。

 予定は未定。

 かあさんにもと此処に持ってきた毛絲は大きな籠でも収まりきらない。
 次の冬も其の次の冬も・・・、同じようにあたしは編み物をして過ごすのだろうか。それとも違うことをみつけているのだろうか。

 作業場にする予定の弐階でなにかと思案している。

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面会日


 前回面会は、行きはバス、帰りは途中までしかバスがなく、其の後は壱時間歩きになった。
 日光アレルギーの心配があり迷ったが、今回自転車にした。

 浮腫みがとれ、前回と比べ顔色もよく母は随分元気になっていた。脚はどうか訊ねると軽いと言い、自分でもよくなったと想うと話す。そうして久々に自分から話をしようとする。
 髪を洗って貰っただの、使うものは全てレンタルを利用したことを告げていなかったため用意するのはたいへんだのとあたしの心配をしたり、柘榴が花開いたと教えればなんでも丁寧にしないと何にもならないだの、と話す彼女を、母らしいと想い笑ってしまう。それにつられたのか、母も笑顔を見せる。
 前回元気のないところを面会し叔母や叔父が母をどう想ったか知らないが、これまで母の受け答えにおかしいところはなく、それどころか今回もそうだが他人の心配までする彼女をあたしは誇らしいとさえ想う。

 時間になり看護師さんがあたしを呼びに来ると、またね、と元気な声で母が言うので、安心して帰路についた。自転車を走らせるのが気持ちよかった。

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 莟だったノコギリソウの花が開く。紫陽花のうすみどりがかった白に比べ、ノコギリソウは何の混じり気もない白に見える。どうせならと彼の傍に置いた花瓶から赤紫のノコギリソウの花を抜き取り白だけの花にすると、泣いてしまいそうになった。
 華やかな気持ち、浮かれた気持ち、弾んだ気持ち、悦びに嬉しさに愉しさに、落ち着いた気持ちに凛とした気持ちに透き通るような気持ちに、・・・・、と好きな気持ちは白に通じている。其れは黒も同じ。そしてそれらは光と影へと向かう。

 夕刻が近付く頃、顔から汗が零れた。妙に躯がふらふらする。熱中症になりかけていたようだ。水分を取り横になり目を閉じる。
 再び目を開けたとき、飛び込んできたのは窓の向こうのもこもことした真っ白な雲だった。大丈夫。そう言ってすくっと立ち上がる。
 白。あたしの内で発光するもの。

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雨の日と編み物


 此の前カーディガンを編み終えたのは参月半ばの頃だったろうか。此れも叔父夫婦が持ち出したのだと想われる、あちこち虫喰いで傷んだカーディガンの編み直しを始めたのは其の後だった。今日のような壱日雨が降る日で、傍に母がいたことを憶えている。
 幾ら絲が細いと言え弐箇月以上掛かっているとは、余りにも進み具合が多過ぎるが、いたしかない。壱日壱度毛絲にさわれなくなった。それでも気持ちを強く持つためにも、此の単純作業を行うのが壱番いいと想っている。
 あとは裾と襟の部分を編み、釦をつけ完成となる。進んでいるのは確かだ。

 和室に置いた桐箪笥の引き出しには、着物でなく手編みのものを入れている。扉が付いている上の引き出し数段には母のもの、下の引き出し数段はあたしのものを。あたしのものは半分は夫に編んだものだが、ふたりのものが綺麗に収まっている。収まりきらない母のものに、彼女の落ち着いた暮らしがうかがえる。
 其れとは異なり、どうしてもうまくできないと母が残していった毛絲には、おだやかでない心情が表れている。

 なかなか止みそうもない雨。耳に届く音に自分を合わせていく。余分なものが削ぎ落されていく感覚。
 雨の様子を見に家の外に出てみると、鉢植えの柘榴が花を咲かせていた。

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珈琲の香る部屋


 珈琲ポットを割ってしまい、新しく購入しようと想う珈琲ポットの寫眞を彼に見せると、「どうぞ。」とひと言。余程のことでない限り彼は否定しない。

 今朝はインスタントコーヒーになった。
 明日はどうしようかと想い、アイス珈琲用のポットを出した。此れは彼がみつけて購入したもの。
 出したはいいが、蓋が開かない。廻すのだったか持ち上げるのだったか、どうにも開かず泣きたい気持ちになる。これ以上無理、と想ったところで蓋は動いた。

 そろそろ冷たい珈琲をと躯は想っているのだろうか。おやつに珈琲ゼリーを選ぶ。
 冷凍庫を物色し、最中アイスをみつけ、皮と中身をばらし珈琲ゼリーに乗せた。其れを見て、自分も、と強請る彼。またそんなことをして、なんて決して言わない。

 珈琲用の道具は最初彼が全て揃えた。あたしは其れをなぞって覚えた。
 けれど、珈琲が好きだったのはあたしで、彼はあたしにつきあううち好きになったのだと想う。

 珈琲の香る部屋はたくさんのものが詰まっている。あたしは其処で今も笑っている。

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