例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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水の様子


 朝から暑い。うんと濃い紅茶を淹れ冷たい牛乳を足す。新たに珈琲豆の袋を開けるのは止して水出し珈琲か紅茶に切り替えようか、などと考える。窓が光の色に染まっている。光は窓ばかりか卓の表面まで瑞々しく鮮やかな色に変えてしまう。
 氷も入れてみようか。そう想い冷凍庫を開け氷入れを覗くと空だった。思い出すと昨夏からそのままにしてある。熱を出したとき用の氷の袋も空になっていて、死んだりなんてしていないし気力は落ちたものの特に変わりないと想って過ごしていたけれど、実際は或のとき時を止めていた状態だったのかもしれない。

 真っ弐つに分かれる記憶。
 嫌な記憶はふいに現れる。瞬間興奮した状態になる。どんなに時が経過しようとざらついた感触は消えず、うぅっと唸る自分がいる。倖せな記憶は絶えず空気中に漂っている。意識すると傍に来てくれる。水を飲んだ時のように胸がすうっとなり、自分が清らかになったかのような錯覚をする。ふたつは相容れることはなく、互いの領域に治まっている。境界を超えることは決してない。

 水筒が家に沢山あって、そんなにもう要らないと想いふたつ塵袋に入れた。
 ひとつは紅茶を入れ会社に持っていく彼専用の水筒だった。パッキンが茶色になり、外側がところどころ剥げかかっている。もうひとつは黒い水筒で、休日の朝淹れた珈琲用の水筒だった。

 時が経たなければわからないこともある。(たぶん)枯らしてしまったブーゲンビリア。溜息がこぼれるほど見事に花をつけたのはもう壱昨年の伍月のこと。
 流しの前で佇んだまま動くことなく蛇口から落ちる水の様子を見ている。

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