夢現
2024, Jun 16
目を覚ますと彼が丁度和室に入ってくるところだった。あたしの様子を見に来たらしい。雨戸は既に開いていて、部屋の中は明るくなっていた。遠くで鳥の声がしている。そろそろ起きる時間だと知り布団から抜け出す。洗面所に向かう途中で彼の部屋を覗くと、パソコンの画面が開いていた。朝早くから音楽フイルムか洋画か何か観ていたのだろうか。
顔を洗い着替えようと和室に戻ったところで、あたしはまた眠ってしまったらしい。
再び目を覚ますと漆時を廻っていた。今朝はローズヒップハイビスカスティーと書かれた水で出せるパック入りの紅茶を淹れる。紅い色の綺麗な酸味のあるお茶が、今朝に相応しかった。
今日は彼の部屋の棚の右の最後の整理に当てようと、進めていくと手持ちの付いた数個の黒いバッグに行きついた。確かDVDとかCDを入れておくバッグだったろうかと開けてみると、自分で焼いたと判るもので埋められていた。
彼との日々は夢と現実の境目が曖昧になっている。俯瞰して言えばそうなのだろう。
ふたり分のお茶とお菓子を用意しても、ひとり分手をつけられることはない。其れは眼に見てわかることだし頭で理解もできる。けれど人は全くの現実や事実のみで生きていない。現実と事実に足される思考。そして其の思考が数秒後、数時間後、数日後、・・・と新しい現実や事実を作りあげていく。
彼にさえ話すことはないだろうけれど、あたしの思考と意志は自分で想う限りはっきりしている。彼にお茶とお菓子を用意することは、自分の生死観から来ているのかもしれない。