疑問形
2024, Dec 03
黄に染まった銀杏は葉を落とし始め、楓は真っ赤に染まり、駅周辺はクリスマスのイルミネーションで飾られるようになり、浮足立った人混みを目線を下げ通り抜ける。元々は然程そう云うものに興味はなかった。なのに毎年のようにカメラを手に笑って歩いていたのは、彼と一緒だからだったのだと想う。見に行かないの?、と言われることで知らず知らずのうちにいろいろ興味を持つことができた。
見に行かないの?、食べないの?、買わないの?、・・・。そう訊かれ自分で決めて行動していた。人によって言い方で催促にしか聞こえない場合もあるが、彼の発し方は促して相手の答を待つやさしい言い方だった。
転出証明書を取りに行った市役所の周りにはまだ薔薇が残っていた。撮らないの?、と彼に訊かれた気がして、アイフォンしか持ってないしと答えると、彼がスマートフォンを向けたのであたしは黙って其の様子を見ていた。