例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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自室にて眠る


 家計簿と日記のひと月のまとめを自室でし、そのまま床に就くことにした。
 電気代の節約にと居間兼母の寝室の隅に布団を敷き寝ていたが、居心地は悪かった。自室の方が何をするでも素早くできて気分も違う。

 横になると冷蔵庫から出る音が気になったが、台所続きの部屋なので仕方ない。それに母の立てる音よりは静かだ。面白いのは家が出す軋む音で、初めこそ躯がぴくっとなり困ったが、しだいに愉しい音に変わっていった。そのうち自分の壱部として受け容れているのかもしれない。
 壱度目の改装の折、台所と自室になっている部分は物置にする予定だったので部屋に電気のスイッチがない。その為いちいち居間に行かなければならず不便だ。扉を開けたすぐ横にスイッチがあるのが救いだ。

 たぶん今の状態も長く続かない。そのうちまた此の家にも変化が訪れるだろう。おとなしくすやすやと隣で眠る亀たちを見ていると、少しのことでは自分は揺らがないと想えた。
 電気代には驚いたけれど、もっと此の部屋にいよう。もっと好きになろう。
 (翌朝目覚めが、とてもよかった。)

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生活感


 迷っていても仕様がないので、戸棚を注文をした。中に彼の荷を入れ、上に法名軸や仏具を乗せようと想う。レコードプレーヤーも置けたらいいのだけれど、機材を購入する必要があり、其れは後々考えよう。
 樹木は樺。引き戸の下に引き出しもついている。生活感の無い隠す収納がおしゃれ云々と時々雑誌の表紙で眼にするが、あたしは生活を感じさせるものや見える収納を好む。寫眞で見た裸足で水汲みをするアフリカの男の子や果物の籠を持ち上げようとしているエプロンドレスを着た伊太利亜の女性は素敵だった。

 何処の國のどの村だったろう。樹木を組み上げた家に、中は藁を敷いたり藁を編み綱にし拵えたゆりかごのベッドが置かれていた。土間にまるく石を置き其の中で火を焚き料理をする。電気は通ってないらしく夜は暗い。
 朝の光はまぶしく夜の静寂(しじま)は美しく、人々の表情は深く、生活が間近にあればあるほど(そして其れを苦と想っていないほど)其れにふれたこちらは高貴さを感じてしまう。鶏の締め方も知らない自分とはなんて云う違いだろう。

 鏡に寫る自分は時々疲れた顔をしている。が、其れは決して生活感から来るものでなく対人関係にあるのだと想っている。

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珊瑚色


 塗り絵に夢中になっている母の横で、あたしも塗り絵をするようになった。

 握力が弱く、ペンを握る力も弱い。壱枚でも危ういのに、弐枚参枚と重ねてあるカーボン紙にいつも苦戦する。幾度も紙の上を走らせないと色鉛筆の色が乗ってくれない。どれもふわっとした印象になる。
 リハビリの為塗り絵を始め数箇月の男性が塗る絵は、技術も個性もあり、まるでプロの作品のような仕上がりで綺麗だ。色の濃さもあたしからしたらずっと濃い。其の色の濃さに憧れつつ、技術はともかく淡い感じも好きと愉しんでいる。

 色を置く気になれず、もう鉛筆でしか絵は描けないかと想った。
 おとついから花を周りに散らした首から上の女性を塗っている。花は全て珊瑚や櫻貝の色と決めている。こんな感じとても好き、などと想い塗っている。
 ××ちゃん、ピンク好きだもんねえ、と彼の声が聞こえてくる。ピンクじゃないの、珊瑚とか、もっとやわらかな色だってば、といちいち細かいあたしの返事を彼はもう聞いてなく、××ちゃんの好きな木苺の菓子があったと手招きしているので、足元を這う亀に、珊瑚、と念を押しておいた。

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とろろ御飯


 アップルパイをこしらえおやつにした。夕食は母の友人に戴いた米を炊き、同じく戴いた大根の葉を半分刻んで塩を揉み残り半分はお味噌汁の具にし、山芋は半分すりおろし半分は海苔で捲き油で揚げた。
 魚も肉もないけれど、何だか贅沢な夕食になったと想う。おやつがアップルパイだっただけにお腹もいっぱいになった。

 山芋って皮を剝かなくてもよかったんだね、と彼に揚げた山芋を差し出す。日本酒に合うと、今晩はお燗にして、と言いそうだなと想う。
 料理は苦手でも彼は文句を言わなかった。麺を茹でる都度、上手、と言うので、誰でもできるよ、と返すと首を傾げていた。
 おとついいとこに、ねえちゃんが作ったほうれん草のパスタがおいしかった、と言われたことを思い出す。殆どにいちゃんに喰われちゃって、と口を歪める。また食べたいのかもしれないが、彼の方が料理が上手なのに。

 いつもいつもあたしが作るのは簡単な料理に献立。それでも倖せになるからごはんて素敵。

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お裾分け


 昨日いとこたちの近くに住む母の友人に戴いたたくあんを近所にお裾分けに行くと、其の人はたくあんがお好きだと聞いているのでと言っただけで顔をほころばせた。あたしまでにこにこしてしまう。

 母の友人はたくあんと一緒にいろいろなものをあたしたちにくれた。其の中には手作りの小麦饅頭もあった。数からして、あたしたちがいとこの家へ行くことを知り前もって用意してくれたものだとわかる。
 以前、此れを地元で有名な店のものより不味いと言い、忘れたふりをし持ち帰らなかった叔母を思い出す。其れを知ったとき、叔母の言動が突然違和感となりあたしに立ち塞がった。好みや生活の質は皆異なり、美味い不味いなど仕方ないこともあろう。他人の選んだものを不味いと言う者は、大概高級菓子折を持参する。

 母の友人は何処を切っても同じ。
 彼女は話し出すと止まらず、電話を切る間合いがみつからず、彼女と真逆な自分はおろおろしてしまうこともあるけれど、愉快な人だと想っている。
 彼女がよこした段ボール箱には山芋も入っていた。お裾分けだろうか。思い出しふふっと笑っていた。

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