例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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新しいかどうかでなく


 何年前に入れたのだかわからない畳は陽に焼けて色が茶になっているものの、然程傷んでいない。
 ちょっと擦ったくらいで表面に傷ができる畳に驚いたのはいつだったろう。以前住んでいた借家の畳もそうだった。取り替えたばかりだと判るうす緑をした畳の表面が脆いとわかり、ラグを敷き使っていた。

 引っ越しの際、それまで使っていたラグを数枚持ってきた。新しくなくても竹や麻が使われているものは感触がよく、棄てたくなかった。其れを自室に敷き、元々此の家にあった夏用のイグサのラグを母の部屋と和室に壱枚づつ敷いてみた。
 和室には敷かなくてもよかったのだけれど、敷いてみると青い色と朝顔の模様がアクセントになり、涼しげな雰囲気をかもし出している。昼寝するのによさそうな部屋になった。

 畳のへりでできた母の手提げも掃除し、桐箪笥と籐でできたチェストを並べた辺りに置いてみると素敵なことになったので、どれも棄てないからあと入院中の母に今日も呼び掛けて笑う。
 そうして、新しいかどうかでなく使えるかどうかなの、とひとりごちた。

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好きにするだけ


 扇風機とストリート・スライダーズの歌で暑さを凌ぐ。エアコンのつけっ放しは腰を痛める確率が高い。それに暑さより気になるのは、肌のざらつきと痒みに軽い頭痛。
 何処の空き地で始まったのか、選挙演説が聞こえてくる。異論はないが、今は頭痛を消したかった。壱旦CDを止め、選曲したのはマスターベーションと題された歌。「マスターベーション、あんたのお頭は・・・」。丁度そんな頭の状態。

 田舎で自転車に乗っていると職務質問されると云う話をよく聞く。職務質問されたことこそないが、確かに自転車に乗っている人は学生でもなければ滅多に遇うことはない。車に乗らないのは、それ相応の理由がある者とみなされておかしくないと云うことだろう。
 自転車もだが、もしかしてスライダーズの歌も鰐のイヤリングも蠍の指輪も水牛の頭のネックレスも帝王切開とプリントされたTシャツも・・・、まずかったのだろうか。

 ひとりぼっちになっても(団体に属せなかったと云う意味で)好きにするだけだけれど、土地土地の常識は難しく戸惑っている。
 ただ、ときどき見知らぬ子が挨拶してくれるのを嬉しく感じている。元気でいてと胸の内でエールを送らずにはいられない。

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無抵抗


 陽が照っている。暑い。しゃがんで腕を伸ばし草をむしる。弐週間も経つとおそろしく草は背が高くなっている。
 額から滴り落ちる汗。冷まして冷蔵庫に入れた水も、もはや冷たさを感じない。氷を入れ飲み干すと、躯は床と平行になった。
 今年はまだ体温がそれほど上がってなく、晴天の日も動き廻って大丈夫だと想っていた。

 夕食に蒸したオクラとトマト。デザートにバニラのアイスクリイム。ご飯が食べられない。
 扇風機の警戒の文字が赤く染まっていたので、入浴前に窓を閉めエアコンをつける。大抵はおまかせの快適自動。除湿運転してくれているのか冷房運転してくれているのかわからないけれど、冷えたほどでもない部屋が眠気を誘う。
 躯が・・・、落ちていく、と想ったとき今年も夏バテが始まったと知った。

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半年が過ぎ


 型崩れしていたつばにスプレーのりを吹く。ラフィア絲で編んだ帽子はいつまで持つのだろう。また編めばいいとは言え、毛絲でも布でも書物でもCDでも此の町で購入するとなると難しく、ましてやラフィア絲。期待しないのが無難だ。
 実際眼にし手に取り購入するのを好む。印刷物と描かれた絵が同じでないように、何度経験しても其の瞬間大なり小なりの感動が生まれる。

 窓と言う窓を開け、玄関も網戸にし上がり口にのりを吹いた帽子を置く。さっき出窓に置いた小物が倒れたので、結構風はあるのだろう。
 今日は台所の卓につき扇風機を廻し、家計簿をつけたり日記を記したりしている。部屋の明るさや涼しさ、すぐにお茶を飲めることを考えたら、夏は台所の卓で過ごすのが壱番だと判る。それに傍に彼がいる。

 此処では、台所の大きな窓の前に置いた棚の上が彼の部屋。棚は硝子戸になっている為、中に置いたCDや彼に関する書類がひと目でわかる。
 レコードやギターも其の傍に置いたけれど、レコードプレーヤーに繋げるアンプがみつかっていない。

 此の町に来て半年。なかなか前に進まないものの後退はしていない。

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おすそ分け


 外へ置いた亀たちの様子を見に玄関を出ると、亀の水槽の蓋代わりにしている網に袋に入った枇杷の実が置かれていた。
 枇杷の樹が植わった弐軒先から届いたと見当はついたが、念の為防犯カメラを確認すると間違いなかった。亀に興味を持ったらしく腰を屈め窺っている姿が可笑しくも可愛らしい。

 彼が好きだったと想い、袋から枇杷をとりいっとう大きいのを差し出す。そして自分も口に入れる。あまくやわらかな実。
 こう云うのがいい。枇杷がみずみずしいのは、今洗ったからじゃあない。

 枇杷の実の空いた袋には玉葱をいつつ詰めた。其れをもうひと袋こさえた。
 玉葱は今朝いとこから届いたものだ。皮が上の方まで付いている。後で結わえて吊るしておこうか。採りたての玉葱はあまい土の匂いがする。

 弐軒先と前にレタスを戴いた肆軒先の家まで玉葱を届けに、手提げ袋を肩に掛けサボサンダルでてらてら歩く。
 角に咲いた真っ白な紫陽花に、こんにちはと声を掛けた。

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