例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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C’est la vie


 小さな亀と一緒に大きな亀を陽の当たる玄関前に出す。目が開きひと先ず安堵する。

 注文した棚が昨日届き、また段ボール箱を開け整理を始めなければと想っていると、いつも通りいとこがやってきた。
 買い物のついでに毎週欠かさず母の様子を見に来てくれるのだが、今日は悲しい知らせも持ってきた。叔父(叔母のつれあい)が亡くなったと知る。

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亀の様子に


 昨日から大きい方の亀の元気がないと想っていると、壱日目を瞑ったままでいる。それとも目が開かなくなってしまったのだろうか、日光不足だろうか、そうでなく齢が来てしまったのだろうか、と心配する。
 夜も毛布にくるみ炬燵に入れていたが、今夜は水槽に入れ様子を見ることにした。布団に入っても落ち着かない。死んだらどうしようと、そればかり考えてしまう。それでもそのうち眠ってしまったらしい。電話が鳴ったような気がして目が覚める。
 が、電話は気のせいだったらしい。ぼうっとした頭で死を知らせる電話だったのだろうかと泪ぐんでしまう。目を瞑ったままの亀を抱き上げ確かめる勇気はなく、死なないでと布団の中でただ繰り返す。

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浅い春



 地元の野菜などが売られている店を覘くと、バケツに梅の枝が入っていた。以前はホームセンターの壱角にある園芸店で切り花を安価で買っていたが、それでも梅や桃など枝についた花は千圓ほどした。
 弐佰廿圓のシールがついた枝は、短いが白い花がちらほらついていた。菜の花が散ってしまった花瓶に残った水仙とねこやなぎと合わせて活け、父の前に置いた後、零れた小さな枝を小さな花瓶に挿していく。
 毎年のように見に行っていた梅園を脳裏に浮かべ、彼の前にも梅の花を置く。
 白梅、紅梅、黄梅に枝垂れ梅に椿。梅と梅の間を潜りまだ浅い春をひとつふたつとみつけては、歩き廻ったことを忘れない。柳の樹も菜の花もほんとうによく憶えていて、すんと今日も鼻を鳴らす。浅い春のやわらかな陽射しと彼のやさしさに埋もれていたあたしを忘れない。

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弐月の嵐


 おとついと同じ、朝から嵐のような風になった。壱歩も外に出られず、夕刻テレビをつけると広範囲で吹いたことがわかり唖然とする。飛んできた屋根で電車が止まり、火事はなかなか鎮火せず、家の玄関前には土が敷き詰められていた。
 此の冬は風が強く気温は低く、肌の弱い小さい方の亀の甲羅が汚くなってしまった。つるつると真っ黒な綺麗な甲羅を保つには日光が欠かせないと云うのに、今日は壱日外へ出すことができなかった。
 ごめんね、と言い亀を抱きながら、此の冬は苦手な春を待っている。きみも彼が残してくれたかけがえのないもの。

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苺のケーキ


 風がなく(微風)おだやな朝になり徒歩でケーキ屋まで行く。此の町は随分と廣い町なことを改めて知る。今日も知らない風景を眼にすることになった。端から端まで休憩時間を含めると自転車で半日かかるかもしれない。
 あたしが編んだベイビーブルーのセーターを着て帰宅した母にケーキを出すと喜んで食べてくれた。朝、誕生日のことは何も言ってなかったのにと言うが、往復壱時間かかる店に行くには風が強ければ諦めるしかない。

 ふと何かを想うとき頭に浮かぶのは以前過ごした町の風景。何でもない交差点や遊歩道や陸橋から見下ろした光景。そして其れを辿っていくと其処に必ず彼がいる。
 苺のケーキでさえ以前過ごした町で食べたケーキが浮かぶ。毎日毎日あたしは夢のような時間を食べて今日を生きる。明日の道へ自分を繋げられるよう。世界を少し拡げ、今日眼にしたことを彼に話して聞かせられるよう。(そう想うことで自身の均衡を保っているのかもしれない。)

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