遠くへ
2024, Apr 29
其れは若い頃暮らしていた部屋だった。
卓代わりにした炬燵。座椅子にもたれ彼が眠っている。時間だよ、と声を掛けると目を開けたので、あたしは台所へ向かう。朝食の用意ができ彼のところへ戻ると、彼は座椅子にもたれたまま眠ってしまっていた。名前を呼び軽く肩をゆらすと目を開け、御飯を食べる時間がない、と言う。そう言いながらまた眠ってしまおうとする。
夢を見ていた。
若い頃、彼は朝が苦手だった。あたしより早起きしたり、珈琲を淹れたり、洗濯機を廻したり、するようになるなどと誰が想像できたろう。
昨日壱日集中し片付けをして疲れたのか、今朝起きたとき強い眠気があり布団からなかなか出られなかった。
お疲れ様です、と彼に声を掛ける。
仕事用のスーツや靴は真っ先に処分した。退職させられたとき貰った高級時計などは彼の両親にと彼の実家へ置いてきた。
何箇月先になるかわからないけれど、引っ越しが終えたら土手を歩こう。忙殺された日々は過去になった。見えなくなるまで歩きたい。