名残
2024, May 19
彼の使っていた塗り薬と飲み薬は壱度整理した。口の開いていない塗り薬はまとめて籠に入れ、飲み薬は書類が多く無雑作に箱に入れただけにした。
やっと飲み薬の書類を整理する気になり、箱を開け見てみると、束になっていたのは薬の入っていた空の袋だった。書類は余りなかった。入院中は其の都度薬の説明書が出されたわけではなく、袋のみ渡されていたことを思い出す。
袋に記載された名前の部分を切り取り、シュレッダーに掛ける。胸が破裂しそうになる。夢中で名前の部分を手で破り袋から離し、シュレッダーに掛ける。後に看護師の方から聞かされた、ふたりで頑張って・・・、の言葉が耳に響く。
どれをいつ何錠飲むか、あたしが手書きで記し冷蔵庫に貼っていた用紙は書類と一緒に残した。
いろいろなものを壱度で破棄できない。幾度も整理を繰り返す。
自分の内に、消えていかないものが、ふたつみっつ・・・とある。名残は完全には消えない。時間を掛けそれらは自分を支えるものとなり、更に長い時間を掛け軸となった。
書架でひと際目立つ背表紙の青く大きい文字。北方謙三・長濱治著の「魂の十字路」。名残。其れはあたしとあたしのだいじなものが交差する地点。