突然
2025, May 18
夜中母がトイレに起きる物音で起こされることもなく、疑心暗鬼が拭えない母が探し物がみつからないので叔父が空き巣に入ったのだと感情のおもむくまま訴えてくることもなく、何故其処に其れを置くのだろうと頭を悩ますこともなく、壱日が過ぎていく。
朝食や夕食の献立を考えることもなく、買い物を頼まれることもなく、デイサービスの荷物を用意することも玄関先で見送ることも迎えることもない。
或る日ぷつっと途切れた日常。帰ってこなくなった猫が突然と云う記憶の始まり。
別々の学校に行くことになったともだちも、遠くへ引っ越していったともだちも、それきりになるなんて子供の頃は深く考えなかった。
電気毛布を敷きっぱなしの母のベッドは暫くそのままだろう。
卓上チェストとでも今は呼ばれているのだろうか。引き出しが数段になった小物入れは和室に置いたら似合うだろうなと想いつつ、弐階から下ろし母の薬入れにし母の部屋に置き母の飲み薬入れにした。
もう其の必要はないと想っても、母が物をみつけやすいようにしている。弐度と叔父夫婦が此の家に入ることはないのだと、弐度と物が突然消えたり現れたりすることはないのだと、話掛けながら。