水の中の太陽
2024, Apr 02
Tシャツにしては値が張ると想ったが、麻と想えば安価。夏になれば欲しくなる自分を知っている。残り少なく其れは最後の壱枚づつになっていた。黒は自分に合う大きさで、白と薄灰はひとつ大きさで、迷ったものの黒と白を選ぶ。しゃりしゃりとした感触が気持ちいい。
もう今月は何も買えない。ひとつ齢を足した自分への贈り物になった。
引っ越すまではどれだけ泣いても生だけを想う。徹することや夢中になることを好む自分は、自身の頑固さを決して嫌ってはいない。そうして是まで自身を支えてきたことの自負もある。
麻のシャツを手に入れる頃になると、古代蓮を見に行きたいと決まって口にしていたかと想う。
電車に乗り時間を掛け辿り着いた古代蓮が咲く町は、いつもいつも暑かった。蝉時雨と照りつける太陽。池の淵に立ち水の中の太陽を覗き、エリュアールの詩はどんなだったろうと想い描き小さな悲しみを掬う、そんな夏の始まり。
彼と歩いた町にひとりで出掛ける気が無い。
何色か見当もつかない色で記憶を縁取りそっと壁に掛ける。もたれた背は熱く、それでいてひんやりとした感触もあり、水の中の太陽を思い出す。
重ねる都度鮮烈になっていく記憶があたしを放さない。