山櫻
2024, Apr 01
近所の白い山櫻が花開いていた。昨年彼を映した寫眞を印刷し、壱週間遅かったことを知る。毎年か、とあれほど想っていたのに、櫻と一緒にあたしを写した寫眞が増えることはもうないだろう。
冷凍の木苺のパイは店から消えた。最後のひとつを解凍し、半分食べる。ささやかに祝うことは忘れない。先に逝ったのが自分でなくてよかった、と想うことにしよう。
慟哭。たぶんそんな言葉が今は合う。
山櫻の咲く道を往く彼の後ろ姿と木漏れ日の美しさに、フイルムカメラで写したならもっときれいだったろうに、と想ってしまう。弐度とやってこない時間。そのくせ年老いて歩く彼を想像できるのだ。
これからあたしは彼の齢をどんどん追い越していくだろう。
何年も前の寫眞の前に立ち、往きたい、とだけ言う。そう言えばきっとまたあたしが気に入る場所を探してくれる。
ふたりの姿が其処に無く、景色だけの寫眞が増えても話をしよう。また往きたい、と言うだけでわかってくれる人だった。彼の隣には山櫻が似合う。