歳月
2024, May 23
電車に乗る。窓の外の景色を眺めているようで、見てはいない。自分の躯に意識が行っている。脚が少し震えていたが、片方の靴の先で片方の靴の先を押さえると震えは止まった。ひとりで電車に乗っても、それほど緊張しなくなったのが嬉しい。
今朝、彼の黒い朝のシャツを選んだ。スタンドカラーの襟に替え袖丈も直したものの、身丈は其のまま。余りにも長いので腰に押し込んできた。
約束の伍分前にインターホンを押し、中に通されると机に封筒を置いた。今月もひと月ずれたままで遅れています、と言い差し出す。
今日見せられたものは参枚。弐枚は問題ないが、壱枚はところどころ数字が抜けている。信用ある者同士ならこう云うこともしますが・・・、と言われ頷く。また同じ過ちを繰り返しているのか、と哀れに想う。今、何故面倒なことになっているのか、理解していないのだろうか。何度も注意喚起するあたしは煩い人間だったろうが、ちゃんとやっていると言うばかりだった者の結果がこれなのだろうか。
拾年掛けようが進歩しない者はしない、成長できない者はできない。他人を頭に描きつつ自身にも言葉を向ける。
書類確認の際、現在世帯主は自分だと応じると、机を挟んだ人は其れで理解してくだすった。麻のシャツの上で、彼の骨がゆれる。
帰りの電車では脚は全く震えていなかった。