根雪のように
2024, Nov 25
朝は冷える。電気ストーブだけでは物足りなくなり、セーターの上から毛布のようなトレーナーを着ると、彼の視線を感じる。カエルの人形を腕に、カエルの人形に大きな声でひそひそひそと話し掛けている。あたしが彼の方に眼を向けると、くま、くまがいる、と言い後退りをする。苦笑するしかない。
「着る毛布」と云う言葉を知る以前、雑貨屋で部屋着兼寝間着の衣類にみつけた。薄い茶色でくまのように見えるのだろう。
寝間着にしては結構な値だったが、綿の厚いものをみつけ彼に渡すと気に入って着ていた。其の上から羽織るカーディガンも彼にも数枚編んだ。
だんだんと寒がりなことに気付いたあたしたちだった。
治療後は痩せたこともあり炬燵に入るようになった彼を思い出す。今は鏡台のある位置に座っていたことが脳裏に鮮やかに刻まれている。
あたしが此処を去っても此の家が取り壊されても、誰が知ることはなくても、其れは根雪のように此処に残るのだろうか。