例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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ブルーベリィジャム


 砂糖の味しかしないジャムが子供の頃嫌いだった。大人になり試しに甘さを肆拾パーセントカットしてあると記されたジャムを買ってみたが、やはり砂糖の味しか感じられずジャムは好きになれなかった。
 或る日黒すぐりのジャムが売られているのを眼にし、黒すぐりの味が大好きなあたしは嫌いなジャムだとわかりながら手を伸ばさずにいられなかった。其れが仏蘭西のジャムだった。砂糖の記載はなかった。初めてジャムをおいしいと想った。それから伊太利亜のブラッドオレンヂのジャムととオーストラリアのさくらんぼのジャムも買うようになった。
 此の町に今まで口にしていたジャムはなく、仕方なく果実のあまさだけで作ったと記された国産のジャムを試しに買ってみたところ、想像を裏切られ嬉しかった。今までどんな国産のジャムを戴いても砂糖の味しか感じられなかったのに、ちゃんとブルーベリィの味がした。

 新しくものを知っていく。
 過去は脳裏に収まっていても未来は全く眼に見えず、彼から遠ざかっていく感覚に襲われるけれど、実際は逆なのかもしれない。
 いつ自分が絶えるのかわからなくても、生まれたときから死に向かって歩いているのは間違いなく、あたしは日毎彼に近付いているのだと想う。

 ブルーベリィが安く売られていたとき買ったらいいのにと彼が勧めたブルーベリィは瑞々しくおいしかった。
 ブルーベリィジャムの傍らで過去と未来が交錯している。

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