ひぐらし
2020, Mar 19
ずっとこれまで生きてきたのに 果敢無いと哀れまれた命
最後の声をふりしぼって、と言われた声で日を過ごせば
空は燃えるような朱い色
あなたと比べられなかったなら ぼくはどんな人なのだろう
昨日はトランペットに合わせ今日はピアノに合わせ
さよならをあなたにうたって
ナンバープレートの取れ掛かった車
変形した蠍の指輪
裾が擦り切れてしまった革のパンツ
毛の色が変わってしまった犬
みんな夕陽くらい抱えているものさ
みんな星くらい握っているものさ
ずっとこれまで生きてきたことに気付いてもらえなかったとして
消える筈もない命は 確かに重みのあるオレンヂ
割れば滴り落ちるあまい汁
傷の沢山できてしまった机
居眠りが多くなった老人
みんな思い出くらい隠しているものさ
みんな愛しいものくらいあるものさ