例えば秘密のノートに記すように。

       cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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風の町、風の谷


 幾つもついた小さな前釦に、くびれた腰回りの墨色のワンピースをずっとお気に入りにしていた。
 コロナ禍で暫く着ることがなく、久し振りに着てみるとすっかり似合わなくなっていた。がっかりしたけれど、上着のように羽織ったらまだ着られそうで、これからは春のコートにして着ようと想った。

 大通りを渡ると今日も風が強く吹く。春は此の町はまるで風の谷。
 高層ビルが作る風と日陰が他の場所より気温を下げる。風は幾らか弱いものの、現在住んでいる借家(の壱階部分)と環境が似ている。
 駅へ向かう階段を上るまで、此の気温とつきあわなければならず、駅のコンコースに入ったなら入ったで日向はできるけれど、風がいっそう強くなる。コートにしたワンピースを羽織った服装でちょうどいいと想ったのにすうすうする、と感じたのも束の間、駅を過ぎると風も消え日傘からちょっと手が出たくらいで陽射しがじりじりと熱いくらいだった。

 川の傍では八重桜が満開。
 誰かが植えたのだろうか。川沿いにみっつ置かれた四角い鉢植えのひとつにれんげ草が咲いていた。
 道をひとつふたつ違えば、様子ががらりと変わる。新しく春のコートも手に入れたし、いつか此処を離れる日まで風の町を愉しもう。

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