雨だれ
2024, Mar 27
歯ブラシもスリッパも昨日のまま。カーテンについた匂いも食器棚のグラタン皿もそのまま。少しづつ減っていくのはオリーブ油、ティッシュペーパー、うがい薬。彼が使っていたリップクリイムは棄てていない。白いカーネイションは数日経っても元気。其れと此れと、時間までが交錯している。
物ひとつ置いただけで空気は変わるけれど、其れは新たな匂いや色が混じったりするだけで全てが変わってしまうわけではない。
洋室の朝は明るく、彼の椅子に座り珈琲を口にする。たまにはマフィンをくわえ。どんな壱日がやってくるのかはまだ知らない。今日も雨。叩きつけるような音が聞こえている。
昨日からの流れにのり今日を拾う。ほら、と彼に声を掛ける。新聞記事を切り抜いて彼の机にのせる。
雨音も雨だれもそのうち途切れ辺りは乾いてしまうだろうけれど、時の流れは収まらない。はみ出した命が音を立て水槽を抜け出した。