例えば秘密のノートに記すように。

       cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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みちくさ


 雨が降る。海棠のつぼみはふくらみ、ゆきやなぎは満開になった。想えば誕生日を迎えようとする頃決まって此の花が傍に咲いたのに、記念寫眞と言えば櫻と一緒だった。
 花ばかりあたしの傍にある。れんげ草や菜の花やすみれ、椿、牡丹、藤、野ばら、・・・。なんて多くの花を彼と見てきたのだろう。誰も知らないような場所をふたりでみつけ分け入り昼寝をした。光と風につつまれ手足を伸ばし、目覚めれば水を飲んだ。或のとき躯に入れたのは間違いなく心地いい旋律だった。空を渡る飛行機雲がうたう歌をも耳はとらえていた。
 水でなければあたしが飲むのは檸檬ソーダ水かオレンヂソーダ水と決まっていることを、彼はよくわかっていた。アイスクリイムならバニラ。そんなことも。
 花の咲く場所で、黙って手招きする彼の姿が浮かぶ。蜥蜴でもみつけたのだろうか。それともカマキリだろうか。彼は彼でそんなものばかり好きだった。それとアイスクリイムなら苺味。
 山櫻が咲いたなら、あたしはきっと彼を探す。喉が渇いたなら彼を呼ぶだろう。みちくさの先には不器用なやさしい手が待っている。

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