発光
2025, Jun 28
主不在の部屋に朝が来る。窓際に置いたベッドの辺りが明るくなり、障子を開け隣室にいる父に声を掛ける。ベッドと隣室の間には、卓と兼用の大きな炬燵と手すりと背もたれのある母専用の椅子が置いてある。其の傍に置いたテレビは電源を抜いてしまった。
折角改装したのに、籐製の鏡台に大きなアクリルケースに入った折り紙でできた花嫁人形に作り直した刺繍の入った遮光カーテンに・・・と配置し整頓された部屋ができたのに。越してきて辛かったけれど、だんだん落ち着いてきた母とならそれなりにやっていけると想ったのに。
たった数箇月だった。けれど其の数箇月があるからこそ、あたしは強くいられる。
嫌な人は頭から消えない。いつまでもいつまでも憶えている。思い出して嬉しくなる人は頭でなく胸の内にいる。いつまで経っても消えない。悦びが悲しみを救えぬように、悲しみが決して悦びを侵さぬように、間には堅牢な境界がそびえ立っている。大地を突き抜けてきた印象と感触のある境界が。
「光り出した青は冬、暗闇に飲まれない、どこかに強い意志を持っている、発光・・・。」
ROSSOの歌を口遊み、昼食にパンケーキを焼いた。乗せたのはアイスクリイム。バニラ。美いな白。こんなときのアイスクリイムは生きていると想う。きっと発光している。