町を知っていく
2025, Jan 22
捌千歩で歩き廻れる範囲。櫻並木のある場所。洋菓子店。川沿いに拡がる風景。書店と言える書店、文房具店と言える文房具店、洋品店と言える洋品店がないこと。其れが壱箇月で覚えたこと。
どの町に越してもすることは同じ。歩いて細い横道に入っては、少しづつ町を知っていく。どの町も違うようでいて少し似ている。
土手の道を歩き、遠くに見える橋や山並みに、草むらで囲まれた川に、これまで出逢った景色が重なる。彼の後を追い自転車で下った坂道の脇に拡がっていた麦畑や、お弁当を広げた橋の下や、逆光に透けるようにゆれていた芒や、春には頭上いっぱいになった櫻の花などが顔を出し、あたしの乾かぬ頬を撫でていく。
土手の道を自転車で走ることはもうないかもしれない。新しく知った景色に指をさし、彼に教えながら歩いていく道は悲しくて愉しくて美しい。