無精卵
2024, Jul 22
大きい方の亀が卵を産んでいるのは白っぽく濁る水で判るのだけれど、卵は水にすぐ溶けてしまうらしくなかなか眼にしたことがない。
夕刻が近付きベランダと水槽とに掛けた簾を外しにいくと、形のはっきりした卵をひとつ水槽の中にみつけた。白く細長いまるの形。然も大きい。こんな立派な卵を見るのは初めてだと想い彼の寫眞に振り返り声を掛けると、素敵、と声が耳に入る。
食する鶏の卵と同じ無精卵。命を感じるときは無意識に厳かな気持ちになっている。網で掬いベランダの隅に置いた。雨が降れば溶けて流れてしまうだろうが、其れ以上のことはできない。する必要もない。
詰まらせたら助けられないので、水を替えるときと躯を洗ってやる以外は水槽に入れている。夏でも一緒に布団で寝ていた頃をなつかしく想った。