湿った空気
2024, Nov 22
霧雨が降る朝になった。寒さに肩をすぼめ郵便受けから新聞を抜き取る。
寒くても霧雨ならば濡れたいと想うのは何故だろう。
此の頃たまに咳をする。寒暖差から来ているのか、乾燥してきたからなのか、はっきりしない。ただ湿った空気が気持ちいい。
家の中に入り塵袋をひとつ抱え、また玄関を出る。傘は差さない。
拾壱月だったと想う。日の出を観に行こうと誘われたのは。
靄に包まれ輪郭がわからなくなってしまった景色と橋の上に昇った太陽は、水墨画を想わせた。幻想的な風景は異国に迷い混んでしまったようでもあり、あたしはカメラを放さなかった。
睡眠時間の多いあたしと違い、彼は夜更かしでもあり早起きでもあった。よくひとりで自転車に乗って出掛けていた。
彼が教えてくれた景色の数々。ひとりでは弐度と行けそうにない場所を思い出すと(先日も駅を降りて東京都美術館に行くのに迷っている)、頬にあたる湿った空気。川沿いの道ばかりふたりで走っていた。
霧雨の朝になった、と彼に掛けた声が弾んでいた。