海まで×キロ
2025, Jan 18
風がないので土手の方を歩いてみようかと想う。
大通りを出て橋の方へ真っ直ぐ歩き、土手へ抜ける道を探す。バスの窓からいつも見ていたが、歩くのは初めてだった。橋の傍には櫻の樹木が並びベンチも設置されていた。マムシに注意の立て看板に壱瞬足が竦んだものの、傍らのセンダングサの群生に嬉しくなる。
彼と自転車で走った或の土手にも或の土手にも似ている。誰もいない道、ひとり占めには廣すぎる空間。遠くに見える青い山並みを背に往けば海まで×キロと記された木柱が立っていて、想わず空を見上げる。息を吸うと、眼に映るもの全てを吸い込んだ感覚になった。
彼と黙って歩いた土手の道を想い浮かべ暫く黙って歩いてはいたが、そのうち、あそこでお弁当を食べるのもいいねとか櫻が咲くころまた歩こうねとか、彼に話し掛けては応えに耳を澄ませ歩く。彼は彼で頻りに焼きそばと、明らかに期待する声を放っていた。
海まで×キロ。其れはそのまま天国まで×キロと云う気がして胸が詰まった。