木蓮
2024, Apr 15
町に戻ると木蓮が満開になっていた。
食料量販店で汲んだ水がトートバッグの中でゆれている。水音を耳に入れながら、大きな花の中に顔を埋めている自分を想像する。
束の間の幻想。彼が傍にいる。自転車にまたがり春を眺めている。
春の夕暮れは特に嫌いだった。早く家に帰りたかった。
いつからか自由になって、いつからかうんと悲しくなった。
帰れば机に向かい何時間も過ごしてしまう。
誰とも共有することのできない想いは、誰とも共有することのない想いのまま花の中に閉じられていく。
みつばちがささやくように、自分でも解読不能な言葉をつぶやいて、螺旋状の階段を降りる。