例えば秘密のノートに記すように。

       cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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木蓮


 町に戻ると木蓮が満開になっていた。
 食料量販店で汲んだ水がトートバッグの中でゆれている。水音を耳に入れながら、大きな花の中に顔を埋めている自分を想像する。
 束の間の幻想。彼が傍にいる。自転車にまたがり春を眺めている。
 春の夕暮れは特に嫌いだった。早く家に帰りたかった。

 いつからか自由になって、いつからかうんと悲しくなった。
 帰れば机に向かい何時間も過ごしてしまう。
 誰とも共有することのできない想いは、誰とも共有することのない想いのまま花の中に閉じられていく。
 みつばちがささやくように、自分でも解読不能な言葉をつぶやいて、螺旋状の階段を降りる。

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