例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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春だったね


 午后弐時を過ぎ雲の切れてきた町。部屋に西日が射したのを合図に小さな白い箱を開く。箱には小さなシールが貼られている。箱には店の名も入ってなく、シールに押された日付の下に小さく店の名が記されているだけの簡素さが品よく感じられる。
 選んでいたときには気付かなかったが、桃のケーキの端を飾っていたのは生クリイムでなくバタークリイムだった。クリスマスになると彼がバタークリイムのケーキ、其れも薔薇の花の乗ったケーキを食べたいと言っていたのを思い出す。彼には苺のケーキを出したけれど、どうぞ、とバタークリイムの乗った方を彼に向けて差し出す。彼は此の町のケーキ店のケーキを食べたことがあると言っていた。自分には其の記憶がない。

 古くからあるらしい町のケーキ店のケーキにしたのは、ひとつは嫌なことが終わったことに区切りをつける為、ひとつは彼と一緒にしたかったことをする為。
 出逢った日もふたりきりで歩いた日のことも動物園に誘われた日のことも、はっきり憶えていない。ただ、ひとつだけ。あれは・・・、あれも、あれも・・・、春だったね。

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