受け容れ難いものはひとつだって
2024, Jul 01
壁紙やシステムキッチンの戸棚の色などを選んでいく。薄っすらと紅色がかった見本を指し、和室の壁は此の色にしようかなと母に言うと、白にしか見えないしいいんじゃないと返される。あなたの方がこれから長いのだから好きにしなさい、と母は言う。人の寿命はわからないと想うが、有難く受け取る。
父も母も暗い色を好まず、はっきりとした明るい色を好む。其の割には是まで何故か和室の壁紙が暗い抹茶色だったが。
台所の敷物が墨色になることは、まだ話していない。システムキッチンの色は其れに合うように考えた。娘が墨色と木製の物をこよなく愛することを母は知らない。然も木製と言ってもつるつるに加工されていたりペンキが塗られている板が嫌いなことも。叔父が勝手に塗ってしまった縁側のベージュ色に激怒していることも。
好きにしてから死んでいく。まだ愚痴が止まらない母に、叔父夫婦が空き巣してくれてよかった、汚いものを思い切って全部棄てられて新しい部屋に住めるなんて倖せ、今度ふたりに会ったらお礼言った方がいい?、と言うと母は爆笑した。
爆笑されてお礼はおかしいかと想ったけれど、彼らは同じ世界にいない。改築した家に、父はただ、うん、そうか、と言うだろうし、夫もただふうんて言い昨日からそうしていたように椅子に座るだろう。そして猫と言えば、相変わらず足元に絡みついてあまえてくるのだろう。
好きなものは全部。受け容れ難いものはひとつだって。縁側を塗ったのが叔父でなく伯父だったなら、今頃どうしたら素敵に見えるか考えていただろう。