傾いた林檎
2025, Mar 25
傾いた林檎。少し可笑しな形。隠れていた子供がおそるおそる顔を出しそうな気配。傍にキャラメルをひとつ置いて、あたしは其れを待っている。子供は亀なのか、小さな頃の自分自身なのか、それとも今にも動き出しそうなあたしの人形なのか、わからない。
決まって忘れた頃に其れは来てくれる。窓硝子に驚いたような其の子の顔が映り、傾いた林檎は隠れ家であることを止してただ赫々と輝く。歪であることは他の何かの整った存在。
あたしの手に乗った林檎は果柄の先まで均衡良く真っ直ぐに立った。