例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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傷口


 負傷した指の血が落ち傷口がはっきりすると、何故手が血まみれになったのか理解できた。道理で絆創膏を重ねて貼ったくらいでは治まらなかったわけだ。
 今は血は止まっているのに、切れた皮膚の間が赤い。痛みもあり、弐、参日では治りそうにないけれど、膿んではいない。自分の傷ではないように想えて暫くみつめた後、椿油かオリーブ油が残っていた筈だとやっと閉じた段ボール箱の口を開ける。

 夢中になると、他のことに意識がいかなくなってしまう。トイレも睡眠も食事も忘れなくなったのに、怪我はよくわからないことが多い。痣ができてもいつできたのか憶えていない。でも、そんなことはもうどうでもいい。
 倖せになれた感覚と、せっかく倖せになれたのだから自分を倖せにしてくれた人をなぞり倖せで居続けようと云う想いさえあれば、それでいいではないか。

 生家の周りにあった森は今ではみな無くなっているだろう。確か父と彼が眠る寺の周りには残っていたような気がする。
 杉の樹の或の太い幹。雷が落ちて真っ二つに裂けようが微動だにしないような或の姿。あれを自分に据えたい。
 ・・・と想う傍から、傷口がちょっと何かにあっただけでも痛くて、声をあげてしまった。

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