例えば其れは
2025, Mar 15
例えば其れは、歩道橋の向こうに咲いていたのがアカシアだと知ったとき。何処からか現れた黒猫が足元で腹を上にし寝転んだとき。先日と同じように菜の花を摘み家に持ち帰ったとき。大袋で売られているキャラメルをみつけたとき。
昨日の記憶がやってくる。彼が傍にいて一緒に同じものを見ている。
「あれから<13、」約弐年半の歳月が経ち、其の日が決まったと知らせを受けた。
今更何も欲しくないと想ったけれど、あたしに随分と有利に話が進んだことに父も彼も安堵しているのではないかと想うと、嬉しいと形だけでも言葉にしてみる気になった。
嬉しい。そう言うと、嬉しいと云う言葉が口を継いで出てくる。
例えば其れは、羊歯で編んだ手頃な大きさの手頃な値の籠をみつけたとき。にゃあが××ちゃんいますかって遊びに来たと早朝彼に起こされたとき。窓の外で鶯の鳴き声がしたとき。花火大会が終わり彼と家路に向かうとき。
ぽんと小さくはじけるものを、ふわっとかすかに灯る明かりのようなものを、自分の内側から自分を撫でているものを、感じずにはいられない。