例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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明日も


 また来るね、と最後に声を掛けると、大丈夫だよ、と言う母。
 自転車を走らせての面会。丗度を下廻った気温。隙間なく雲が浮かんだ空。ところどころ真っ青な空が覗く。道の脇には盛りになった百日紅に葛、花を咲かせたオナモミにニラ。季節が移ろうとしている。
 帰りは脇道に入り田んぼに囲まれた道路を走った。空気が気持ちいい。昨日の雷雨で土手に生えた背丈のある草は倒れ川の水は淀んでいたけれど、稲は真っ直ぐ立っていた。早くも茶に染まった稲があり、光の加減で黄金色に見える。此れが全てそうなったら見事だろうと想うとひとりでに笑みが浮かぶ。
 人によって分かれてしまう(分けられて)世界。明日も此処にいたい。

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惨事


 縁側で作業をしていると雷鳴が聞こえた気がした。気のせいかと想っていると再び雷鳴が耳に届いた。部屋にいたら耳に入らないようなかすかな音。
 手を止め亀たちを家に入れようと水槽の水を取り替えていると、急に突風が吹き雨も降ってきた。慌てて植木鉢を玄関のすぐ手前に置きシャッターを閉める。亀たちを中に入れ窓を閉めようと家の中を走るが追い付かない。
 霰が降るような雷雨でも母の部屋の窓さえ閉めればよかったのに、台所の出窓と流しがびしょ濡れになっている。急いで壱階の窓を全て閉め弐階に上がる。
 弐階はもっと酷いことになっていた。わずか参分程の間にここまでかと想うほど床が濡れラグはたっぷり雨を吸っていた。風の勢いが凄く雨があとからあとから入って来る。窓を閉めている間にTシャツはびしょ濡れになった。
 念の為窓は閉めるが、土砂降りでも雨が家の中に入ることはなかった。暑さに堪えきれず雷雨の最中に幾度窓を開けたろう。それほど今日は風が強かったことを教えている。

 弐階の床の水の拭きとりを終えた頃、雨は小降りになり陽射しまで出てきていた。廿分は経っていない。
 そりゃあ外にいたら流されることもあるし竜巻で飛ばされることもあるだろう。そう云うことを踏まえての自然。
 これくらいで済んでよかったとラグを物干し竿に掛ける。

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侵入者


 浴槽の端に乗っていたのはカナヘビだった。あっと想った瞬間壁と鏡の隙間に身を隠してしまいそれきり姿を見せない。
 参、肆日前流しの下を這っていたのも同じ個体だろうか。
 いったい何処から入り込んだのか。けれど悪戯したあともなく毒をもっているでもない侵入者なら気にならない。これが蠅やゴキブリだったら食べ物が気になるし、蚊だったら刺されて痒みに数日悩まされることになるし、猫だったら妙な関係を築いて毎日のように食べ物を与えてしまう駄目人間に陥ってしまう危険性がある。そして人間だったら想像もつかないことが必ず先にある。

 彼に報告し、カナヘビはちゃんと覚えたことを付け加える。
 カナヘビもイモリもヤモリも全部蜥蜴と言っていたけれど、よく見るとみな違っている。
 カメレオンにさわらせてくれる店が此の町にもあったらいいのにと想い、カナヘビにもう壱度逢えることを期待している自分に気付きくすりと笑う。

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山盛りレタス


 ブロッコリー、茹でた海老、ハム、胡瓜、トマト、そして大量のレタス。
 冷凍したご飯を温めて、豆腐を添えて、蓮と人参の炒めたものがまだ残っているから、と考えていたのに、ソースの味見をしたのがいけなかった。夕食は山盛りとは言えサラダだけとなった。

 久し振りのレタス。買うまで食べきる心配をするのに、買ってくると其の日のうちに参分の壱は食べてしまう。いつものことなのに全く学習しない。
 豆苗や南瓜や人参や・・・、毎日少しづつ食べていても拾日以上レタスやキャベツを抜いた後レタスかキャベツを買ってきた日の夕食はレタスだけやキャベツだけ食べておしまいになる。其れも生に限る。

 もともと好きでもない肉ならともかく、魚や果物でもこうはならないのに何なのだろう。
 もう使うことはないだろうと想い、彼と使っていた仏蘭西製のサラダボウルも処分してきたのに。
 アカシアの皿はまだあるでしょうと彼が言うので、卵を茹でて明日も山盛りのレタスを愉しもうと想った。

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ワンプラスワン


 橋の上では壱昨日の花火大会の片付けが続いていた。
 普段殆ど眼にすることなく、其の都度其の都度裏方仕事を想像することはない。時折様子を眼にする分余計に心が動く。
 支えている者と支えられている者がいてこそのひとつの形。

 サインする必要のある書類と一緒に渡されたデイサービスで母が使っていた座布団と上履きを母の部屋に置く。今日の面会では眼を開け起きていた母。
 不在が浮き彫りにする存在の感触。

 片方では成り立たないもの。見えていないものの形。

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