例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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不在


 月曜日も日曜日も祝日も然程気にすることなくなった日々。
 弐階のカーテンがよくゆれることを思い出し、涼しくなったら弐階で過ごそうと想った。
 アンドリュー・ワイエスの画が好きなのは不在を感じるからなんだろうか。そのままにしてある母のベッド、デイサービス用の鞄、編みかけの毛絲、・・・。
 昼食を終え皿をそのままにした卓に母の、父の、猫の、彼の不在を想う。
 昨日の花火大会のだるさを引き摺り重い躯に横になると眠ってしまっていた。
 時々自身が不在になる(たぶんそう)。そうして夜に朝に引き出しを開け、此処だったかと想っては卓に付く。自由も不自由もない。
 珈琲の匂いと音楽があたしのエッヂとし残ったまま。

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花火大会の夜


 汗が乾いていく感覚、お弁当を開けたときのおむすびや焼きそばの匂い。あたしの技術ではたいした画が撮れないので要らないと言っているのに三脚を立てている彼。帰り道壱匹だけみつかる蛍。
 少し離れた場所から花火を眺め、虫の声や風にゆれる草が立てる音や田んぼの水の音や持ってきた炭酸水のはじける音と一緒に花火の上がる音を聞くのが好きだった。

 家と会場が近く、家にいて花火を観ることができるのはいいと想っていたのに、花火の上がる大きな音とともに聞こえてくる音楽が不快でたまらなくなり、窓を閉め階下に移ると浴槽に湯を溜めていた。
 それでなくても流星群を愉しみにしていただけ、夜空を奪われたような気持ちになっていた。

 豪華絢爛高評価のエンターテイメントの花火もあたしには煩わしいものだったけれど、誰かの心には残っていくのかもしれない。
 今夜の花火に限らず、心に残るものがいつまでもきらきらしているようにと願わずにいられなかった夜。

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縁側で


 時間は掛かるけれど勝手に塗られたペンキを落とすことができるとわかり、昼食後作業していると、近所の方に声をかけられた。通りから見えなさすぎず見えすぎない玄関口に縁側。
 玄関口に置いた椅子に何の不自然もなく彼女が座る。彼女は母の茶飲みともだち。コロナ禍以前は互いに家を行ったり来たりしていた関係で、あたしも知る人。

 母が病院にいる話から始まり、齢をとりなんとなく調子も悪く毎日やる気がでないと云う話に耳を傾け、あたしはあたしで空き巣事件のことを話す。
 空き巣事件のこととなると人が変わったように能弁になる自分が自身でわかる。母の話を半信半疑で聞きつつ心配してくれていた彼女に、自分も初めは信じられなかったと前置きし状況説明をすると、それじゃあ盗ったのは間違いないってことじゃない、と言葉が返ってきた。

 感情で感情に訴えるなんて壱時のまやかし。
 悲しかったことも辛かったことも腹の立ったことも死にたくなったことも自慢したくなるようなことも、他人に話すなら淡々とのほほんとした口調のまま縁側でするのがよろしかろう。

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雷雨


 初めて利用する隣り町を走る循環バス。壱番近いバス停まで徒歩廿伍分。平日なら或る程度本数があるとわかった。
 丁度バス停に付く頃雨が降り始めた。時折耳に届く雷鳴。遠くで光を放っている雷が傘の向こうに覗く。帰りは肆拾伍分待つことになるけれど最終のバスに乗れるから、と胸を落ち着かせる。

 病院内は静かで窓から雨の降る様子こそわかるが、雨音も雷鳴も届かない。
 午前中やってきた民生委員さんが渡してくれた町から出たと云う敬老の日のお祝いの袋を見せると、うんうんと首を動かす母。鼻に入ったチューブは除かれることなく、熱を出した日から繋がったまま。
 心不全なので呼吸の心配があるのはわかっているものの、点滴のチューブも繋がれていて余計痛々しく見える。

 帰りのバスを待つ間、待合室のテレビを観ていた。東京の街の様子が映る都度其処から此処は遠くにあることを想う。
 好きだった街。どれほど時が経とうと変わろうと気に掛けている。そのものに利己や悪意など生まれていない限り。

 病院を出る頃には降りやんでいた雨。泣かないで家まで帰ろうと想った。

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ふるえ


 ふいに其れはあふれ、とまらなくなった。
 逆に其れはふいにとまることでもあるのだろうと想い、ぬれていた。

 急に其れを想った。
 其のとき彼女は声を発しない状態になっていた。其れを見て心無い者たちが、ひそひそと囁いたのではないかと云うことを。

 黙々と作業をしていると、突然はっとなり想いが浮かぶ。
 想いと言っても空想ではない。其れは見落としていたことであって、其の都度胸はふるえる。

 あたしの意識に明日が存在するのは、此の瞬間以前の時間と経験が存在する故。
 冷蔵庫を開け冷たくしたお茶をごくごくと飲み、また黙々と作業に戻る。

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