例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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流星群


 此れが略奪だったら、戦争だったら、と考える。あたしの想うことは、トンデイル、と知ったので一切口にしなくなったけれど想うことは止まない。
 信じられるものはどう考えても、何処に視点を移しても、答が変わることなく、抱き上げるとほっとする。此れは幼い頃覚えた猫のぬくもり。同じ姿でなくとも同じ言語でなくとも、手を貸したりなぐさめられたり違う方向を見ていても一緒に過ごすことが苦痛でなかったりした。

 星がきれいなんだって。流星群が見られるのだって。そう言って彼女を誘う。
 猫は弐匹。弐匹が逢ったことはない。其れが壱匹になりときどき現れる。其処に彼も加わる。

 流れ星に願うことは、誰も誰かに侵されることないようにだったのに、いつからか侵す者が存在しなくなりますようになった。此の願いは残酷だろうか。少しだけ複雑な表情をする彼女。けれど、わかっているよと云うように隣に座る。

 屋根を拭こうか。ついでに窓も。弐階で寝たら暑いだろうか。
 彼女たちがそのままあたしの流星群。先に逝かれることを想いもしなかった残酷すぎるほどの倖せ。

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おだやかな日々の為に


 縁側を取ってしまう覚悟で塗料剥がし液を買ってきた。塩素系溶剤を含まずさわってしまっても肌がぴりぴりすることないと説明書きにあったものを選んだ。
 これで容易に剥がれるかと想ったが素人の、然も丁寧な仕事ぶりからほど遠い者のしたことである。参度塗り重ねてようやく剥がれてきた。端の方は参度塗り重ねてもびくともしない。
 丁寧にした仕事ほど直すときや壊すときは簡単だと云うことを身を以て改めて理解した。
 黙々と作業していると、汗で濡れてきたTシャツ。額からぽたりと垂れた汗。今日は此れでおしまい、と手を止めると耳を声が掠めた。「してやったのに。」純粋に相手の為に行った者は決して口にすることのない言葉。そう云う者からは自分が決して聞くことのない声にはっとする。

 母が今度家に帰ってくるのはいつだろう。
 もう自分は片付けや整理に関しては何もできないのであなたの好きにしなさい、と彼女が言うので好きに模様替えをしては最後に細かなところを見てもらい直してきた。きれいになって、と其の都度笑った彼女。
 帰って来るのは亡くなってからになるのだろうか。それでも母のおだやかな日々の為に、あたしの倖せの為に。誰かの存在を無にする為に。

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粗末な命であっても


 面会に行きたいと言っていたいとこが熱を出し、バスに乗る。車を出してもらわらなくても土、日、祝日は行き帰りのバスがある。
 自転車のように雨に降られたときの荷物を心配する必要がなく、背負ったリュックサックが軽い。リトルミイの腕時計もしてきた。

 帰りのバスは丗分待った。行きのバスは時間通りにやってくるのに、帰りのバスは必ずと言っていいほど拾分遅れだ。対応も雑。決して安くはないバス代。
 久し振りに目を覚ましていた母を思い出しバスに揺られる。声を掛けると笑ってくれた顔を思い出し窓の外を眺める。

 目的地に着き自分自身の為にお礼を言いバスを降車する。
 あたしも命。粗末な命であっても気分はだいじ。

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杢目を見せた板に


 少し気温が下がり縁側のペンキを剥がす為ヘラと紙やすりを用意する。専用の液は板を痛めるのでお勧めできないそうだ。

 勝手に塗られたペンキはどのくらいの厚みがあるのか見当もつかない。ヘラで削ぎ紙やすりを掛けるが、剥がれたのかそうでないのかも全くわからない。
 考えた末マニュキアの除光液を垂らしてみる。其処をヘラで擦るとヘラに玉が付く。参度繰り返すとペンキが剥がれ、本来の板の色が顔を出した。きれいな杢目のある茶色の板だった。

 呼吸はできそうですか。苦しくありませんか。
 ペンキを剥がした部分から覗く板は、隣に立て掛けた梯子と同じに生きている匂いがした。
 縁側の傍に置いた踏み台まで全てペンキを落としたなら、あとはたまに雑巾掛けでもするだけでいいのかもしれない。

 かつて森にいたと想う樹木。かつて立っていた筈の樹木。姿形が変わっても美しさは残ったまま、森の頭上に拡がる空をも想わせてくれる。

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剪定


 大きな音を立て降る雨。其の音を譚歌にし、長い軒下でゼラニュームの剪定をする。使うのは父が使っていた鉄製の剪定鋏。
 此の家に来て壱度も剪定されたことないゼラニュームは驚くほど背が高くなった。鉢植えはみっつ。特に挿し木し増えたわけでなく、いつの間にか育ったようだ。
 何度も空き巣に入られ水やりもやる気がなくなってしまったと母は言い、壱時は元気をなくしてしまっていた鉢植えの植物たちは此の夏落ち着きを取り戻し、ゼラニュームも他の花も此の夏今までで壱番花を咲かせた。

 来年も咲いて欲しい。
 雨で真っ直ぐになったあたしの髪。今日は結わえていない。髪がゼラニュームにふれる都度髪からゼラニュームと同じ濃厚な植物の匂いが生じる。だからこんな大雨の日にすることにした。
 此の家で起こったありとあらゆるものを吸い込んで育っていけ。呪うように祈る。生に執着しなくなっているのに、来年も、再来年も、其の後も、と。

 止むことを忘れたかのような雨。こんな日は永遠が見えるような気がする。

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