例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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破損


 あっと云う間だった。壊れるときはいつも同じ。
 座椅子に落ち着き床に眼鏡を置き珈琲を口にし、そこで眼鏡を戻せばよかったのに、卓に置いたタオルに腕を伸ばし顔を拭き腕を上げ、腰は何とか大丈夫と想うとくつろぎ過ぎてしまった。座椅子に座ったままごろごろと躯を動かしたあとで、やっと眼鏡が頭に浮かんだ。
 手に取ったとき片側のつるは上を向き、片方のレンズが外れていた。レンズには擦ったような傷もついていた。購入してから弐箇月。最短だった。
 眼鏡店で直しては貰えたが、だいぶフレームが痛んでしまったそうで、レンズの傷もあり、交換するよりまるごと購入する方が得だと言われた。暫くこのまま使うことにする。

 花瓶に、花瓶の次は自身、其の次は眼鏡が、と想うとへこみそうになる。
 けれど、ふと想った。あたしが酷いことにならないよう代わりに助けてくれたのかもしれない、と。

 今朝は肆時起きし、彼と父とが眠る場所に線香をあげてきた。
 変わっていると言われるほど常識を気にしない父は兎も角、彼も此処にいるのでなく家で自由にしていると感じられて仕方ない。
 代わりに助けて・・・などと想うようになったのは、彼らを傍に感じているからだろうか。

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不調


 彼の実家で食事をしていた。碗を持ち汁をすすっていた。具は海苔だろうか。左には彼が、右奥には彼の母が座っていたが、あとの者ははっきりしない。
 食事を終えると、彼とあたしは出掛けるらしく着替えをしていた。
 庭に出ると、訪ねてきたものがいる。彼の友人だった。あたしは顔を見て長渕さんだと想い会釈をすると、長渕さんもあたしをわかったようでにこにこしていた(が、実際そんな名の友人は彼にいない)。
 ふたりは庭で立ち話をしていたが、暫くすると植木の処に場所を移し騒いでいる。花粉がどうのと話しているのであたしも植木の傍まで行くことにした。
 白と鮮やかな紅の植物が植わっていたが、白と紅色のものが花なのか葉なのかわからない。彼が手でちょっとあおぐと花粉が宙に舞い辺りが白くなった。
 そんな夢を見ていた。

 暗闇の中で目覚めると、肩から背中が冷たくなっていた。冷房はしていない。汗も掻いていない。
 布団から起き上がり躯を確かめると腰から尻の辺りも冷たくなっていた。このまま風邪をひくのだろうかとびくびくしつつ台所に行き水を飲んだ。そしてそのとき腰がおかしくなった。軽く済んだものの、ぎっくり腰になったらしい。

 いつもいつもどうしてこうなのだろう。躯の何処かがいつもと違うことになってから、不調に気付く。

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雷雨


 強くなったり弱くなったりしていた雨は雷雨に変わり、なかなか鎮まる様子を見せない。いい齢になろうがなんだろうが、こんなときはカエルの人形と抱きあうに限る。恐いよね、泣いちゃうよね、とたまに絶叫を入れつつ繰り返し抱きあっていても怯えが消えるわけではないけれど、少しは冷静になろうと想えてくる。
 長い時間続く雨と雷。拾分おきに傍に増える人形。
 あたしがまだ小さかった頃、雷に怯えるあたしに父が押し入れに入ろうと言い、一緒に入ったことがあった。(雷からわからないように隠れてしまおうと云うことだったかと想う)父も雷が怖いのだと大人になってまでも想っていた自分。
 或のときの父を思い出すと、レエス編みをする気になった。昨日割った花瓶の代わりに黒のマーブル模様の入った飴色の花瓶を出したが、新たに花瓶敷きが要る。
 人形たちはそのまま。飲み物も傍に置きいっぱいになった床。雷から隠れているみたいだ、と父は笑うかもしれない。

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固執


 水を換え花瓶を抱えたときだった。コツッと当たる音がしたかと想うと花瓶は手から離れ、次の瞬間床には水が拡がり粉々になった花瓶が散らばっていた。
 泣くでもなくしょげるでもなく淡々と後始末をする自身を味気ないと感じる。固執しないことを淋しいと想うのは、人として熟し方が足りていないのだろうか。
 残っている花瓶も悪くはないが、自分で花瓶を買おうと想った。あたしのことだから気に入ったものがみつかるまで数年かかるかもしれない。そこはまだ固執していると云うことだろうか。
 まだ見ぬ花瓶の姿を想っては躯に力が湧いてくる。自分は決して固執することが嫌いではないのだと想う。

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颱風が来る前に


 颱風が来る前にと想い、急いで買ってきた花と菓子と果物。仏壇を置いた棚から出した盆用の立派な線香。亀たちは家の中に。鉢植えは玄関の周りに並べ、シャッターを下ろす。
 東から西へ横断するとは想ってなく、懐中電灯を用意しバケツに水を溜め、パソコンやアイフォンを充電する。停電したなら、近くの川が氾濫したなら、どう動こうかと考えばたばたし、はっと気付く。ご飯を炊いてなかった。冷凍したご飯は残っていない。
 そうしてご飯が炊きあがりラップに包み冷凍庫に入れる頃、雨脚が強くなってきたと云うのに眠ってしまった。テーブルの上には鍵とタオルと空っぽのリュックサック。
 まあいいや、と想う。鮮明な記憶以外は全て果敢なく、此の身ひとつで生きられないなら受け止めるしかないのかもしれない。

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