瞼の裏側
2026, Sep 17
雨が降る。遊歩道を思い出す。
百日紅が咲いている。或の町の百日紅や、或の通りの百日紅を思い出す。 思い出す都度瞼の裏に鮮やかに現れる光景。其処にあたしがいて彼がいる。違うものをと想うのに、そう云うものはなかなかなくて思い出したとしてもすぐにまた戻ってしまう。
彼の好きだったコンビニエンスストアのカレーパンでさえ思い出すので、ひとりで笑っては卓に座りぼうっとしている。
ぼうっとしてしまう時間は倖せだった時間に等しいのかもしれない。それと同時に泣きたかったときに泣けなかった時間にも等しいのかもしれない。
同じ体験をした人の集いに行こうと想わないのは、自分の存在するのは悲しみではないからのように想う。他人に聞いて欲しいと想うのは、強いて言うなら彼のかかりつけ医師や担当医への怒りだからなのかもしれない。
くだらない。
そう言っては瞼の裏側に燦然と輝く時間と共とに椅子から立ち上がる。それでいい。