例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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ただそれだけのこと


 壱本だけになってしまった竜胆。盆に入るので買ってきたものだった。
 菊を買ってきて肆日。真夏程ではないけれど、水の汚れが速い。菊は壱週間もたないかもしれない。
 久し振りに昼間冷房した。
 黒や白以外の服を着る気がますます失せ、パジャマにならないものはみな処分してしまおうかと想う。
 ただそれだけのこと。

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籐編み


 人の中に自分から入るのが苦手だが、苦手なこともちょっとしてみようと、無料の口座に応募した。ひと月に弐回籐編みをすることになり、捌月はパン籠を編んだ。
 弐時間余り集中し黙々と手を動かす間は、余計なことは壱切頭に浮かんでこない。
 飴色になるからね、伍拾年経っても使えるからね、と先生に教えられ、持ち帰った完成品に食パンを入れ台所に置いた。自分でこしらえたものが育っていくなんて、素敵だ。

 家にある吊り籠には土藤と記されたタグが付いている。土藤とは皮つきのことらしい。無骨さが可愛らしく気に入っている。底を見ると教えられた編み方に似ていた。
 玖月になり新たに何を編みたいか問われ、あたしが選んだのは吊り籠だった。パン籠も吊り籠も初心者向けだそうだが、底の編み方が難しく何度も解いてはやり直している。
 弐期目だが参期目だかの人たちは大きな大きな籠を編んでいるが、続ければいつか自分も編めるようになるかは疑問。

 同じ体験をした人の集まりに参加する気は今でもなく、自身に合った自身をほぐす参加の場がみつかりよかった。

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八月さよなら


 八月さよなら、壱番好きな季節さよなら。
 花火大会がなくなった八月さよなら、彼の後をついていくこともなくなった季節さよなら。
 父が西瓜を与えてくれことのなくなった八月さよなら、海へ行くことのなくなった季節さよなら。
 記憶の中になった八月さよなら、野外音楽堂に出掛けることを楽しみにすることもなくなった季節さよなら。

 来年も八月が巡ればきっとまた幾度も死にたくなって、それでもきっと壱番好きな季節に変わりなく、これからもあたしは八月を過ごすのだろう。

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落ち着かない


 わけもなく家の中を歩き廻ったり、家具の配置を変えたばかりなのに変えてみたり、外に出ては草取りをしたり、と椅子に座っていられない。ひとりになると落ち着かない。
 疲れるまで動いて、電池が切れになった玩具のようにぴたりと止まり床に伏せる。壊れたわけではないから、と口にしては眠る。
 起きては、また其の繰り返し。

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今でも


 午后から母の面会に行く予定が、病院から連絡が入る。コロナ患者が出たので伍日明けてからの面会になるそうだが、其の間新たにコロナ患者が出ればまた伍日明けてからになる、と説明を受ける。
 全開の面会の日に丁度熱を出した母は、抗生物質を投与され熱は下がり落ち着いていると云う。けれど、年齢のこともあり余力が殆ど残っていないので、と言われる。
 苦痛でなければそれでいい。

 高齢や病気になった相手に対し、こちらが選択をしなければならない場合、どうすればいいか考えても尽きることはない。ただ、選択後、相手のおだやかな顔を見て間違いでもなかったと想い、最後の最後まで倖せを想うことはできる。
 そして、あたしは今でも夫の倖せを想っている。

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