例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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面会


 長く同じ状態なことから、母は医療病棟に移動になった。
 たいへんなのは、面会が廿分毎の予約制になったこと。平日時間が合うバスはなく、自転車で行くのはこれまで通りだが、問題は休日。都合のいい枠がひとつしかない。これまで、平日に壱回休日に壱回、週弐回なるべく面会に行くようにしていたけれど、今後はどうなることやら。

 今日は母は調子がよいらしく、たくさん話をした。
 良くもならなければ悪くもならない。肩をぽんぽんと軽く叩くと手を握ってくる。結構力が強く、安堵する。
 ずっと離れて暮らしていたせいか特に淋しいことはなく、苦しんでいないならたまに逢えればいいかと想う。(躯が不自由になっただけに、一緒にいたら365日丗分おきに不満を口にする母に、本人もあたしも疲弊したいへんなことになっていたのではないかと想う。壱歩外に出ると人が違ってしまう母には、病院にいた方が色々な面で快適かもしれない。)

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林檎


 供えた林檎は傷んでしまっていた。包丁を入れると片側だけとわかり、皮ごと小さめに切ってトースターで焼くことにした。
 焼いたあとは、フライパンでバター焼きにし、ヨーグルトと一緒に皿に盛りつけ昼食にした。

 林檎にまつわる彼是。其れこそが彼とあたしにしかわからないことで、肩をすくめて笑う。
 新しく買ってきた林檎は彼の隣に。赤であってもきいろであっても、林檎だけは切らしたことがない。

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決まったことばかり


 空気が冷えてきた。ほんの少し程度なら、陽に当たっても気になるくらいで済むようになってきた。
 参分の壱ほどには軒下に陽射しが入るようになり、工夫しなくても布団を干せる。亀たちも充分に日光浴ができるようになった。玄関の脇に置いた椅子に座り、亀たちと遊んで過ごすことが多くなった日々、ひとり言が増えたのはいいことなのか悪いことなのかがわからない。
 亀たちに話し掛けるのは決まったことばかり。いつのまにか傍に来ていた彼もまた決まったことばかり話し掛けてくる。他愛ないこと。けれど其れはふたりしか知らないやりとりで、くちびるを尖らせながらあたしはちゃんと返事をしている。

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隙間


 辺り壱面何もないと想う場所は落ち着く。
 見渡す限り人が歩いていない場所は恐くない。
 物音ひとつしない場所に音楽の存在を感じる。
 鬱蒼とした森の中に落ちた陽光がまぶしい。
 扉の隙間から覗くと煙突の傷まで見える。

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胡桃のソース


 おいしい胡桃の味を知ってしまったあと、安価の胡桃を口にするのを渋るようになってしまった。
 小さなすり鉢と小さなすりこ木を出し胡桃を擂り、粉チーズとオリーブ油とヨーグルトを適当に入れ、胡桃のソースをこしらえる。ヨーグルトでなく生クリイムを使ったりニンニクを入れたりしてこしらえるらしいが、あるものでこしらえれば自分には充分。
 鮭のムニエルにも野菜サラダにも胡桃のソースをのせ、今日の夕食とする。あたしはパスタだろうと箸で食するが、彼はナイフとフォークだろうと想いミッフィーちゃんの紙ナプキンと一緒に卓に置く。
 鹿の頭が装飾されたナプキンリングのことはすっかり忘れてしまったけれど、自分ならそんなもの。今日はワインかな、などと冷蔵庫を開けようとする彼がわかるのが愉しい。それで充分。

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