例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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小雨の降る日


 診療は休みで院内の待合室は暗く誰も腰掛けていない。
 バスを待つため入り口に置いてある椅子に腰掛けていると、面会にやってきたらしい人に声を掛けられる。雨が降ってきちゃったよ、と彼が言い、今日もですね、とあたしは応じる。

 外の物干し竿に交互に掛けられる傘と雨合羽。窓掃除は暫くしていない。
 夏前に挿し木にした紫陽花の脇に、小さな葉が出てきているのを見ては、雨も悪くないと笑う。

 濡れるのは嫌いじゃあない。
 麻のシャツもジーンズも黒なので、雨粒がすぐに模様を作る。濡れながら雨粒をのせた曼殊沙華に声を掛ける。同じだね。

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作り直し


 部屋着にも寝間着にもなるタオルでこしらえたワンピースは、着用の時期が難しい。夏用の寝間着にするには生地が厚過ぎた。ズボンに作り直そうか、長袖のTシャツに作り直そうか、考えていたが、上着に作り直すことに決めた。
 これからやってくる長い長い冬。羽織りものは幾つあっても困らない。洗濯しても壱日では乾かない冷えた季節。弐階に避難する日々を想う。

 弐階ももう少し住みやすくした方がいいだろうな。冷えて指先がかじかむ前に作り直そう。
 台所も未だに気になる箇所がある。いったいいつになれば落ち着くのか。壱年後弐年後参年後の未来を具体的に想像できずにいる。

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答はない


 雨が烈しい。
 東側の国道から此処までゆるい下り坂になっている。けれど更に先に進むと土地が低くなっているようで、表通りも裏通りも水ははけてしまう。浸水はさほど心配していない。
 問題は近くを流れる川で、あふれたなら弐階へあがればなんとか水嵩は凌げるだろうが、家ごと流されたならどうなるのだろう。それで終わりになるならそれでいいのだけれど、生き残ってしまったとき、彼に関するものと其れを書きとめた詩と、覚えた歌を失っていたら、生きていこうと想えるだろうか。

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佇まい


 昨日夜空を飾った大輪の花火の何倍もあるかのような美しさで佇む曼殊沙華に、凛としている姿とはそう云うものかと想う。

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花火の上がった夜


 墓参りから帰宅しチャンポンをこしらえ腹くちくなると、YUSUKE CHIBA SNAKE ON THE BEACHの「SINGS」を大きな音で聴いた。勝手口の扉の窓を上げていても外には漏れない。
 これから川原で花火があがるそうで、めずらしく町には車と人であふれている。風呂に入り寝間着にもなる部屋着に着替え食後の珈琲を飲んでいると、外で大きな音がした。

 裏の歩道に椅子を出し花火を観ることにする。歩道と言っても此の通り数軒で提供しているもので私道な故、うちの敷地には車道の手前まで屋根が掛かっている。ぽつぽつと雨の降る日に花火を観るにも都合がいい。
 花火の上がる方向とは逆に参台駐車してあったが、そちらの歩道で花火を観ている者はおらず邪魔にもならず気にも止めなかった。ところが其の前に入って来る車がある。うちの真ん前だ。
 最初入ってきた車はエンジンを止めず暫く停まっている。音もだが排気ガスの匂いも気になり警察に電話しようと家に入ると、間もなくエンジンの音がしなくなった。去ったとわかり電話はしなかった。
 次に入ってきた車はテイルランプをつけ駐車しているので花火が観え辛い。前に廻り花火を眺めていると、ここだめよ、と背後からたどたどしい日本語が声が聞こえてきた。注意され、車は離れていった。注意したのは参台並んで停まっていた車から出てきた人だと想う。
 最後はこれから花火がフィナーレを迎えると云う時間に入ってきた車で、やはりテイルランプを灯している。前に廻るとフィナーレだったこともあり夢中になってしまい、其処で最後まで観てしまった。

 花火が終わり濡れてしまった髪を拭く為洗面所に立つと、鏡に映った自分が子供に見えた。半袖が漆分袖に半ズボンが漆分丈に見える大きめの服、Bカップの胸は平らで髪は短く壱目し男女の区別もつかない。
 いろいろなことを想ったけれど、疲れて寝てしまった。

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