例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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熱量


 小冊子を入れた箱を弐階に持っていく前に今壱度整理しようと、弐年振りくらいで蓋を開ける。個人で作ったり知り合い数人で作ったりした詩やイラストを載せた小冊子もすっかり過去のものとなってしまったが、処分するまでもないかと頁を捲り、かつて自分の記したものの熱量に圧倒された。
 怒っている。言葉に、自身に。同じ言葉を使っても、個々で意味の異なってしまうことに対して。全く言葉を使えていない自身に。窒息しそうになるほど言葉や絵で埋まった頁があたしを突いてくる。
 折り合いのつかないものは消えることなく留まり続けるが、形は変わる。昔怒りであり焔だったものは、熱量は其のまま悲しみであり根雪になった。マグマが造ったと云うアイスランドの地形を想い、或の形になれたならと想像する。
 或の頃教科書にしていた村上龍の「ライン」は、今もあたしの書架に収まっている。

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作業着


 背は全面に布が当ててあるが前は太い紐になっているジャンパースカートは、脇についているファスナーの開閉に引っ掛かりがあり、着用する際気になって仕様がない。けれど丈の長さと中に何を着てもいいのが気に入っている。
 襟を取ってしまおうと想いつつ未だに手を付けていない白いシャツを中に着たら、まるで昔の女学生のようになったが、上に割烹着を着たら落ち着いた。
 ジャンパースカートにしろ割烹着にしろ、壱枚持っていると助かる服がある。
 サロペットやオーバーオールは作業着と云う意味だと何かで読んだ憶えがあるが、肩紐のある服は着やすく動きやすい。
 黒でも少しづつ黒い色が異なるように、ジャンパースカートもサロペットも少しづつ意匠は異なる。これからも同じように見える服を買い、違いを愉しみ、あたしは過ごしていくのだろうか。
 明日は晴天の予報。布団干しをするにもジャンパースカートはうってつけに想う。

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リラの枝


 芍薬はとうとう花びらを落としてしまった。ラナンキュラスも時間の問題だろう。金盞花と違い壱週間以上持ってくれたと想い、いつもの店を覘きに行く。
 バケツに入っていたのは、金盞花の花束に菖蒲を入れた花束だった。それと脇の方に少し置いてあったのが、うさぎの尾にヒヤシンスを壱本、すずらんの葉でまとめた花束。うさぎの尾の前でひとつはこれだけれど、と何気なく目線を後ろに向けたとき、リラの枝が眼に飛び込んできた。
 家庭で育てた花ではないらしく値が違ったが、それでもリラの枝が売られているのを見たのは初めてだった。

 リラ、リラ、リラ、・・・と連呼し花瓶に活ける。一緒に買ってきた真っ青で繊細なレエスのような葉がついた人参を抱き今度は、人参の葉、人参の葉、人参の葉、・・・と連呼する。
 人参はラぺにし葉はオリーブ油で炒め、豆腐ハンバーグもこしらえ、同じ皿に少しづつ盛り付ける。其処に解凍した伍穀ご飯を添え昼食にした。父と彼にも分けた。其の間保温調理鍋でやはり一緒に買ってきた筍を茹でる。

 心許なくなってしまった財布の中身。けれど、例え明日困ることになっても、後悔しない選択は胸の奥まであたしを透き通らせる。

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雨と白い靴


 外は雨が降りてきていた。汚れてもいいと想った合皮の靴は、白いものだった。靴を選ぶのに然程天候など気にしないのだが、新しい靴を濡らしたくない気持ちがそうさせた。
 バスに乗車する為、橋を渡り土手を歩く。菜の花は終わりすかんぽに彩られている。雨は本降りとなり、肆拾分の道のりが靴を汚す。
 以前履いていたブーツを思い出す。あれは足の指を骨折する前のことだ。雪の日に履く靴を探していたのだが、今よりサイズが0.5センチ小さく、なかなかみつからなかった。やっとみつけた大きさの合うブーツの白っぽい色に躊躇していると、気に入ったならいいんじゃないと言い彼が買ってくれた。

 帰宅し汚れた靴を脱ぐ。外側をざっと外の水道で洗う。
 コンバースの白い布靴をまた買おうか、そして雨の日に履こうかなどと想い。

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意味より


 アマリリスとブーゲンビリアが同時に開花し、玄関先は壱気に華やいだ。
 繰り返される命。植物、花、・・・。誕生から死までつきあい過ごしていると、夢だの目的だのと附加したがる人間が滑稽なものに想えてくる。
 何ものにも何かしら意味は存在するのだろうけれど、意味より個々の内側に備わった力を、外側に染み出した其れを、眺めていたい。

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