例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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 柚子の匂いが台所に満ちる。
 ふかふかのシーツを洗濯することも、きゃべつを買うことも、年末に買った柚子を砂糖漬けにすることも今日になってしまった。南天の葉はひと枝を残し落ちてしまい、花瓶から抜かれ乾燥花になった実と葉がくすくす笑う。しっかりものの蝋梅だけは未だに凛とし花も匂いもそのまま。

 冬になり毎日のように寝坊している。丗分目覚まし時計を遅らせたのに、目覚まし時計の音で壱旦目覚めてもやはり其の後丗分はうとうとしてしまう。神経質で細かなところが気になり何をするでも人壱倍時間が掛かるのに・・・。
 傍から見たらのんびりした朝、ゆっくりとした時間の流れ。本人はてきぱき動いているつもり。此の差異はすっかり気にならなくなったものの、玄関を染めるまぶしい光には慌てる。部屋に入れた亀たちと鉢植えをひとつひとつ運びながら、おはようとごめんねを繰り返す。

 朝。何度迎えても新鮮で、もぎった柑橘類の匂いが辺りに拡がるような壱日の始まり。何度迎えても其の中で死にたくもなればそうでもなく、新たな自分が始まる時間。

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季節は繰り返しても


 朝の町にほんのひとときちらついた雪。
 膝掛けは亀に貸してしまったので、籠から新たに壱枚出すことにする。ラムズウール100パーセントと表示された其れを、何度か腰に捲き付けてライブを観に出掛けたりもした。
 此の冬は寒い。アルパカ入りの毛絲が残っていたけれど足りるかだろうか、と心配しつつセーターを編む気になっている。
 季節は繰り返しても少しづつ様子が違う。
 元は伯父のものだったと想われる黒いジャケットに腕を通し、ぼく、とつぶやく。髪を短く切って仔犬のようにはしゃいでみようかなどと想う冬。眼にしたもの全て笑えたらいいのに。スープカップにさえ悲しみを見てしまう。

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こんな日


 風呂あがり、冷たいヨーグルトがおいしい。
 廿時前だからと自身に言いわけし、チョコレイトをひと粒口に入れる。
 冬になり就寝時は早くなり起床時は遅くなったのに、昼寝までしてしまった。
 こんな日もあるよ、と蜜柑まで食べる。
 いっとうなかよしのカエルの人形と長い間抱きあった後、長い長い溜息をひとつ吐くとこんな日はどうでもいいことになった。

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静物と記憶


 壱年経っても先に進まない手紙は、便箋に折り目がたくさんついてしまった。作業場にしようと考えた弐階で、冬のやわらかな陽射しの中にただ立ち尽くす。
 押し入れを整理したり、棚をふたつ並べ其の上に板を置き作業台をこしらえ、壱階から机や電気ストーブを持ってきたのに、立ち尽くしていることの方が多い。

 カーテンを染める光や床に落ちた光。茶色になっても棄てずにいる紫陽花の乾燥花やハンガーラックに掛けたお気に入りの上着。何度も眼にしているものを今日も眼に入れる。そうして静物と呼吸を合わせてみる。
 動いていないからといい決して動いていないわけではないように想う。光を受け陰影を作ったり、色褪せ形を変えたり、其処には自分には聞こえないわからない言葉がある。彼らも自分と同じに記憶を残している気がする。
 ひとつでありひとりの個は、静物も自分も・・・。

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爪を切る。


 未だにベコニアはいっぱいの花を咲かせている。蔦は枯れているのに、中央に青が入っている白い朝顔もやはり花を咲かせたままでいる。スイートピーかと想われる紅色のひらひらとした花びらも元気なままで、季節がわからなくなる。
 お湯を使い洗い物をするようになった途端に、ぽろぽろと崩れていったあたしの爪との随分な違いに戸惑う。
 きれいだけれど、いつ彼らは休むのだろう。いったいいつ枯れるのだろう。

 面会に行き、来たよ、と声を掛ける傍から、気をつけて帰ってね、と返してくる母に、まだバスが来るまでに時間があるのと言い笑う。
 良くもならないけれど悪くもならない。それでも半年前に比べると躯は細くなった。

 気持ちとは裏腹にあたしの生もひたむきで、花々や母たちに並び時を往く。
 壱ミリも伸ばしておけない爪をぱちんと切ったあとではらはらと泣いた。

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