例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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視線


 壱日佰枚印刷し、述べ千陸佰枚程の寫眞を収めた陸冊余りのアルバムができあがった。フイルム寫眞を足したら何枚の寫眞になるだろう。彼とあたしと、どちらが寫したものか余程でない限り判断がつくもので、一緒に過ごすことがどう云うことなのか改めてわかる。
 ひとりよりふたりの視線はより多角的に物を捉える。あたしの寫眞は建設物を寫したものが少ない。寫っていても景色の壱部になり、小さくてはっきりしない。何処へ出掛け何処で寫したのか、他人が見たら全くわからないだろう。自分だけが知る小さな世界。記録でなく、旅の思い出でなく、全くの日記。詩も散文も絵も寫眞も、あたしのは個人の日記だ。
 「壱番奥にしまった物語」。其れを他人に話す気もなく、読んだものがわかるように書く気もなく、胸から零れた想いを残らず拾いあげようと疾走するように綴っていく。拾漆歳の頃のように。其れを書いた自分以上に読み取った彼。出逢えたことは奇蹟だった、と今にして想う。

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人生最後の


 少し期限の過ぎてしまったランチョンミートの缶詰を開ける。塩分丗パーセントカットと記載されているが、塩辛い。ランチョンミートを崩し細かく切ったアボカドと和え、蒸したオクラと紫蘇でくるみ食べたら塩気が気にならなくなった。
 彼はランチョンミートだのコンビーフだの、魚肉ソーセージ、タイカレー、パクチー、アンチョビ、・・・、と酒類と輸入食品の置かれている店に行くと酒と一緒に何かしら買っていた。どれもあたしが口にしてこなかったものだった。

 焼いて、其の方がおいしいよ、って言うかな。もう少し待って苦瓜を買ってゴーヤチャンプルを作ったら、とでも言うのかな。
 たぶん人生最後のランチョンミートになると想う。全部サラダのようにしてしまった。残りはサンドウィッチにして食べようか。

 開けてなかった酒類は差し上げたけれど、口の開いた綺麗な青い瓶のジンは残した。それからウヰスキーとリキュールは、おやつ用に。真似をしてアイスクリイムにかけて食べたらおいしかった。

 明日、段ボール箱ふた箱分のフロッピーディスクを塵に出す。此れが何だかよくわからなかった。
 彼の友人がお線香をあげにきてくれなかったら、先ず分類毎に仕分けして、と整理しているうち少しづつわかってきてひと月程掛けて処分しただろう。それも悪くはないのだけれど。

 彼がいたから知ることができたこと。彼がいたから自分にもできたこと。そう云うものが沢山あること。これからも続けていくこと。たぶん最後だと想うこと。
 抱えたものは余りにも重く大きく、家賃を気にしつつ、整理はゆっくりでいいよ、と自身に声を掛ける。

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グレープフルーツティー


 彼が部屋に入ってきた。何故彼がいるのだろうと想ったけれど、状況も何もわからない。そのまま受けいれた。
 テレビの前に置いた卓につき、あたしに話し掛ける。パソコンの何だかを焼いたらどうの言うけれど、またそんなわからないことばかりとあたしはぷいと横を向き、台所へいきお茶の用意をする。
 電話が鳴り彼の応じる声が耳に届く。相手は伯父らしかった。「うん、そうです。帰りました。未亡人にしておくわけにはいかないから、一緒に暮らします。」

 目が覚め、夢を見ていたと知る。
 夢ってもっと朧げだったと想うのに、彼の夢はいつも写実的で、夢と現実の境が薄い。

 夢の中で淹れようとしていたお茶は紅茶だったと想い、今朝は試供品のグレープフルーツティーにした。いつものようにカップはふたつ。

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いちご物語


 昨夜は玖時間近く眠った。歯の治療が終えても横になることなく、帰宅後食料量販店に水を貰いに行く。歯医者へはさっと通えるようになったけれど、緊張は直らない。何処かで均衡をとる必要がある。それには眠ったりカエルの人形を抱いてぼぅっとするのがいいのだろう。
 壱昨日上の階の住人さんが引っ越しの挨拶にいらしてくだすった。其のとき戴いた菓子を開ける。本当は今日は花を買ってきた。気に入ったのがなく、あまいバタークッキーで自分の機嫌をとる。菓子を出されカエルの人形もご機嫌になる。
 音楽を聴くまでには至らない。けれど片付けと整理をする気持ちになれた。

 ふたつめのクッキーを口に入れ、ふと書架の本が目に入った。大島弓子さんの書いた漫画だった。夢中で読んだ最後の頁に、「・・・一番奥にしまった物語である」、とあり結局今日もぼろぼろと泣いた。

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プリンとハイエナ


 激しい雨が降る。壱昨日から咳が出るようになり、気温が下がると心配になる。せきぜんそくの文字が頭を掠め、明日の歯医者の予約が気が気でならない。
 冷えたのだろうかと想いシャツを重ね着し、トトロの綿毛布を膝に掛ける。そうしてカエルの人形を抱きうーんと考えているうち、夜横になっても咳が酷くなっていないことに気付く。
 軽いので普段鼻炎があることは忘れている。たぶん鼻炎からきているのだろう。此の間日光アレルギー対処に貰ってきた薬で事足りる筈だと服用すると、咳は拾数分もすると治まった。

 彼はあたしが臥していると、薬の時間だと言い必ず水やプリンを持ってきてくれた。それより何よりあたしは何時間でも眠っていたかった。起こさないで欲しいと其の都度御願いしていたことを思い出す。
 彼が食事で躯を守っていたなら、あたしは睡眠で、眠ると調子が戻ることが多い。最近玖時間寝ていないせいか昼間どうしても眠くなる。昼寝したあとは少し調子が良くなる。

 具合が悪くなっても、もうプリンは眼の前に出てこない。其の代わり此の頃伏せることがなくなった。
 目を閉じてハイエナを想う。獣のしなやかさ。あんなふうな眼をしてあんなふうに草原に立って、あんなふうに風を受けたい。

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