お弁当箱
2024, Jun 22
試供品のティーバックの紅茶を今朝も慎重に淹れる。ローズヒップにハイビスカスを組み合わせた紅茶はよく目にするけれど、そこに乾燥黒すぐりやブルーベリィを加えた紅茶は初めてだった。
硝子のティーポットが見事な薔薇色に染まる。見た目にも濃い味と想える紅茶は酸味が強く、冷まして氷を入れたら夏にいいだろうなあ、と想い微笑む。
今日は食器の最後の整理を、と始めるとやはり躓いてしまった。弐段になったお弁当箱は自転車で出掛ける際必ずと言っていいほど使っていた。
名前を覚えるのが苦手なあたしは、町の名前も川の名前も森の名前も公園の名前も言えない。或の赤い芥子の花も、土手を埋めていた百合の花も、川の水の冷たさも、メダカが泳いでいたことも、川に足を浸そうと彼が靴下を脱いで見せたまだ焼けていない足の踝の形も、・・・、鮮やかな記憶となり瞼の裏にしっかり残っているのに。
昨夜も夢を見たのは、きっと弐日続けてご飯を炊くのを忘れたからだと想う。此処に越してくる前の部屋だった。袋から釜に米を移していた。其れが何故だかうまくできず、自分は風呂に入るけれど・・・、と彼に心配されていた。
食器の整理を、と想ったのも、そんな夢を見たからかもしれない。
紅茶はいつものように壱日分淹れ、覚めた頃コップで飲んだ。
ふたつ揃えたリトルミイとピンクの水玉の柄の小さなコップは、暫く使っていなかった。彼が水を飲むのに丁度いいと言っていたコップは、今朝淹れた紅茶の味にぴったりだった。
もう森へも川へも湖へも行かないと想うのに、お弁当箱は当然のように棚に戻された。